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論文

 西欧ではジュン・ブライドという言葉もあり、6月に結婚式を挙げる人々が多いようですが、これは6月の英語の名前がローマ神話の女神ジュノーという結婚生活の守護神の名前に由来するからです。
 しかし、日本では梅雨の時期ということもあり、結婚式の月別の順位では、6月は6番目で、やはりこの9月から11月にかけての秋が結婚式の季節です。
 その結婚式では貸衣装を借りるのが普通ですが、ほとんどの人は一生に1回、多くても2回から3回しか使わない打ち掛けや羽織袴ですから、これは当然です。

 ところが、最近では、披露宴に招待される人々も、衣装だけではなく、ハンドバッグなども借りる人が急増しているそうです。
 例えば、東京にある「Cariru(カリル)」という会員制の店では、無料の会員登録をするだけで、ルイ・ヴィトン、エルメス、シャネル、プラダなど20種類以上の高級ブランドの200種類以上のハンドバッグを、インターネット経由で注文するだけで、自宅に配送してくれるというサービスを行い、人気です。
 値段は、買えば60万円近くするエルメスのケリーバッグも1週間19800円で借りることができます。気に入れば、そのまま買うことも可能で、借りた3割程度の人はそのまま購入しているそうです。

 レンタルと言えば、レコードから始まり、ビデオ作品、CD、DVDと発展してきた映画や音楽の作品のレンタルが有名で、その代表である「TSUTAYA」の会員数は3000万人を突破して、国民の4人に1人が会員になっています。
 しかし、最近ではインターネットでダウンロードする人々が増加し、停滞気味です。
 ところが、急成長している分野もあります。
 その代表はレンタカーです。乗物を貸すという商売は、アメリカでは西部開拓時代の馬車のレンタルから始まっているという歴史がありますが、日本では1957年に自動車のレンタルを許可する制度が成立し、1960年代からレンタカービジネスが始まっています。
 昨年3月末で日本には6135のレンタカー会社があり、保有台数は37万6593台になっていますが、ここ10年ほどで10万台も増加しています。
 これは旅行先の観光地で借りるという需要も増えているのですが、やはり、不況のために、購入するよりは必要なときだけ借りるという考えが浸透してきたのだと思います。
 実際、都心で毎月数万円の駐車場代を払うよりは借りた方が安くなります。

 住宅についても日本には独自のレンタル住宅があります。1ヶ月契約で部屋を貸すというビジネスは1970年代から登場していましたが、1983年に「ツカサ」という会社が「ウィークリー・マンション」という名前で、1週間単位で部屋を貸すというビジネスをはじめました。
 台所用品はもちろんですが、寝具、テレビジョン、電話などの家具付きですから、短期出張のサラリーマンや都会で受験をする受験生に人気で、現在ではデイリーマンションも登場しています。
 都内の3・5畳の居室に風呂、便所、台所が付いた部屋で、1週間3万円程度ですから、ビジネスホテルよりも安くなる勘定です。
 さらに家庭電化製品のレンタルも登場し、「手軽にレンタル あるる」はテレビジョン、電気冷蔵庫、電気洗濯機など、日常生活に必要な家庭電化製品8種類のうち、5種類を選んで借りることができる仕組で、1ヶ月で3129円、1日にすると約100円ですし、設置や修理の費用も会社が負担してくれます。
 すべてを新品で購入すると最低でも20万円はしますが、大学生が部屋を借りて新しく生活を始める時を考えてみると、4年間借りて使っても15万円ですから、学生時代はレンタルで済ませ、就職してから最新の製品を買った方が得するという訳です。

 さらに人間にまでレンタルは拡大し「レンタル家族」というビジネスも登場しています。
 結婚式などで親族が少ない場合、親戚のように振る舞ってもらうというビジネスですが、そこからさらに発展して「レンタルお兄さん、お姉さん」も登場しました。
 これは引きこもりの若者を社会に復帰させることを目標とするもので、お兄さんやお姉さんの役割の人が、若者に手紙を書いたり、電話をしたり、家庭訪問などをして、社会に復帰させるのですが、1994年から始め、これまで700人ほどの若者を社会復帰させているそうです。料金は3ヶ月で基本料金が30万円ほどです。
 どちらも意外な印象ですが、当事者や関係者には切実な問題ですから、その問題を解決する手助けになるという意味では意義があると思います。
 今後も様々なレンタルビジネスが登場してくる可能性はあると思います。

 ところで、このレンタルは、日本では伝統ある商売なのです。TSUTAYAの元祖にあたる貸本屋は江戸時代には隆盛でした。
 当時、新刊の小説は1冊数万円もしていたので、一般庶民は買うことが出来ず、貸本を利用していました。
 多くの貸本屋は風呂敷に本を包んで肩に背負って得意先を回っており、一軒の貸本屋が200軒ほどの得意先を回っていたといわれます。
 江戸の庶民は日常生活でも様々なモノを借りて生活しており、市中にある「損料屋」という、現在のレンタルショップに行き、布団や蚊帳、衣服などを借りていましたが、人気があったのが「ふんどし」でした。
 普段は下着を付けなかったのですが、祭りなどのときや吉原に遊びに行く時には、損料屋で借りていたということです。
 日本の伝統には、さらに大きく借りていたものがあります。「借景」です。
 京都の修学院離宮をはじめとして、多くの寺院や茶室では、遠景の山並みなどを庭園越しに眺めるように設計されています。

 現在、若い人を中心にレンタルで生活することが流行している理由は、経済的に有利だというだけではなく、無駄に消費しないという環境問題への意識も影響していると思いますが、それ以上に日本の伝統文化も受け継がれているのではないかと思います。





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