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論文

 テレビジョンの世界では2011年7月24日の地上デジタル放送への移行まで1年10ヶ月ほどになりました。
 デジタル放送は電波を送信する技術の変化で、信号の乱れなどに画面が影響されにくいとか、移動する乗物の中でも美しい映像を見ることができるなどの優れた特徴がありますが、テレビジョンを見る立場からは、これまでと大差のない画像を見るだけですから、それほど大きな変化ではありません。

 そういう視点から大きな変化の第一は白黒テレビジョン時代から、カラーテレビジョンの時代に移ったことです。
 日本で白黒テレビジョン放送が始まったのは1953年2月1日ですが、受像機の値段がサラリーマンの年収に匹敵する20数万円でしたので、なかなか普及しませんでした。
 しかし、1959年4月10日の今上天皇の皇太子時代の御成婚のパレードが実況中継されることになり、急速に普及しはじめました。
 内閣府の「消費動向調査」を見ると、1958年にはカラー受像機の世帯普及率は16%でしたが、59年には24%、60年には45%と急速に普及したことがわかります。

 そして1960年9月10日から、当初は「総天然色テレビジョン」と呼ばれていたカラーテレビジョン放送が始まります。
 これも最初は受像機が高価で普及しませんでしたが、1964年の東京オリンピックがカラー放送され、さらに1968年4月から、NHKがラジオ放送の契約を廃止してカラーテレビジョン放送の契約を創設して、カラー放送の時間を増やした時期から普及しはじめ、ついに1973年にカラー受像機の世帯普及率が76%となり、白黒放送の65%を逆転し、カラー放送の時代に移ります。

 次の技術革新が、それまでのテレビジョン放送より高精細な画像を送るハイビジョン放送です。これは画面の縦横費を3:4でから9:16と横長にし、走査線の本数も525本から1125本と2倍にして、きめ細かい画像を見ることができるようにしたものです。
 ハイビジョン放送は1989年から実験放送が始まり、1991年から1日7時間から8時間の試験放送を開始しました。
 そこで、そのきめ細かい画面を十分に楽しむために大画面の受像機が発売されるようになり、技術もそれまでの奥行きのあるブラウン管から液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ、さらには有機ELディスプレイを使った薄型の装置へと進んできました。
 昨年の世界全体の売上でも85%が薄型の装置になり、最近では大型テレビジョンで厚さ2・5cmしかない薄い受像機も発売されています。

 それでは次に、どのような技術革新が期待されているかということに興味が湧きます。
 これまでのテレビジョンは5感のうち、視覚と聴覚だけに情報を送っていましたが、臭覚や触覚に広げようという実験もありました。
 受像機に匂いの元を溜めておき、電波で信号が与えられると、特定の匂いの元を霧状にして吹出すという装置でしたが、前の匂いが残るということで実用になりませんでした。
 触覚についてはヴァーチャル・リアリティの一環として研究されましたが、テレビジョン受像機では実用になりませんでした。
 そこで最近注目されてきた次のテレビジョンが三次元テレビジョン、3Dテレビジョンです。
 映画では、1960年代から立体映画が製作され、1985年につくば市で開催された国際科学技術博覧会の富士通パビリオンで「ザ・ユニバーズ」が上映され、ご覧になった方も多いと思います。
 その後、それほど話題になりませんでしたが、昨年からアメリカでは映画館で立体映画の上映が増えており、11月にはディズニー制作のアニメーション映画「ボルト」が上映され、日本でも今年8月1日から上映されていますし、12月18日からは、技術的にパナソニックが支援し、ジェームズ・キャメロン監督が制作した「アバター」も上映予定です。

 このような動向を反映して、テレビジョン放送でも立体画像を送る実験的放送が始まり、2007年には、青赤の眼鏡をかけて見るコマーシャル放送が行われ、日本BS放送も番組を放送しています。
 そこでテレビジョン受像機を製造しているパナソニックやソニーでも、来年を目標に、3Dテレビジョンに対応するブルーレイレコーダーやテレビジョン受像機の開発を始め、標準規格を作成するための組織も、パナソニックやソニー以外に、サムスン電子、アップル、デルなどの機器製造企業や、ウォルト・ディズニー、ワーナーブラザーズなどの番組制作会社など19社が参加して設立されました。
 これらは専用の眼鏡が必要ですが、総務省では、眼鏡を必要としない「インテグラルフォトグラフィ」という原理を応用した立体テレビジョンを官民一体で開発し、2025年までに放送を開始するという計画を発表しています。

 白黒テレビジョンの放送開始からカラーテレビジョンが登場するまでに7年しかかかっていませんが、これは途中に第二次世界大戦があったからで、1940年に実験放送が行われていましたから20年が経過し、そこからハイビジョン放送までに31年かかっています。
 そう考えると、ハイビジョン放送から20年近く経過した現在、そろそろ次の技術革新が登場しても不思議ではありません。
 しかし、現在のテレビジョン放送は高度な技術を駆使しているものの、多くの人々が見たいと思う番組を製作しているかには疑問があります。
 この新しい技術の登場を契機に、番組の内容も新しくなるように期待したいと思います。





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