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論文

 今週から多くの小中学校で夏休みになっています。
 現在では海外や国内へ旅行して、各地の自然に親しむ子供も多いと思いますが、僕の子供時代には、夏休みというと家の付近で遊ぶのが普通で、近くの小川などでメダカ取りなどをしていました。
 ところが現在、どこにでも居たはずのメダカに異変が発生しています。
 メダカが急速に減りはじめ、1999年2月に環境庁(当時)が発表した「レッドリスト」で、メダカが絶滅危惧2類(VU)に記載されて、「絶滅の危険が増大している種」となり、2003年5月には環境省の「レッドデータブック」にも記載されたのです。

 本題に入る前に「レッドリスト」と「レッドデータブック」について簡単にご紹介しておきたいと思います。
 これは国際自然保護連合(IUCN)という組織が1966年に策定し、その後も改訂してきた基準で、まず絶滅のおそれがある生物の名前や生物学上の分類など簡単なデータを発表するのが「レッドリスト」です。
 それから詳細な調査をして、生態、分布、生育状況、減少している要因などを記載したのが「レッドデータブック」です。
 そして記載された生物は、その絶滅の危惧の程度によって、何段階かに分類されています。
 すでに絶滅してしまった生物は絶滅を意味する英語の「Extinct」から「EX」、動物園や植物園などには生存しているが野生には存在していない野生絶滅が「EW」、まだ野生で生存しているが絶滅の可能性がある生物は、絶滅寸前が「CR」、絶滅の危機が迫っている種が「EN」、絶滅の危機が増大している種が「VU」と3段階に分類されます。

 メダカは現在のところ「VU」ですが、数十年前には、どこにでも居た生物ですから、それが絶滅を心配されているというのは驚きです。
 そこで、なぜそのような状態になったかを検討し、日本の環境の現状を考えてみたいと思います。

 メダカの絶滅が心配されるようになった原因は大きく3つに分けられます。
 まず、メダカの棲息する環境が急速に減ってきたことです。メダカという名前は、目が大きくて、頭の上から飛び出ているように見えるので付けられたものですが、学名は「Oryzias Latipes」で「稲の周りに居るヒレの広い魚」という意味です。
 ここからも分かるように、もともとは水田や、そこへ水を供給する小川に棲息していた魚です。
 ところが休耕田が増加して水田が減り、農業構造改善事業などにより、小川はコンクリート3面張りになり、用水路もU字溝に変えられて、メダカにとっては生活しにくい環境になりました。
 そして人口が増加して生活用水が小川に流れ込んだり、農薬の使用量が増えて、水質が悪化していることも原因です。
 もう一つが外来種の増加です。戦前、ボウフラを退治する目的で、北アメリカ原産のカダヤシ(タップミノー)という魚が台湾から持ち込まれて放流されました。
 この魚は肉食性が強く、魚の卵や稚魚を食べるため、メダカの天敵になっていますし、さらに悪名高いブラックバス、ブルーギル、コクチバスも同様です。

 もうひとつメダカについて心配されている問題があります。
 絶滅しそうだということで、善意の方々がメダカを放流しはじめています。
 メダカは大きく分けると、日本には北日本のメダカと南日本のメダカが棲息しており、最近、東京大学海洋研究所と千葉県立中央博物館の研究チームが、遺伝子が3%ほど違う種だという研究成果を発表しました。
 ところが善意の方々は、そのような区別に関係なく放流するどころか、観賞用に品種改良された「ヒメダカ」や「シロメダカ」を放流し、さらに外見が似ているので、天敵である「カダヤシ」を放流している例もあるようです。
 そして最近、遺伝子操作で人工的に作られた「光るメダカ」が台湾から輸入されて販売されていますが、これが自然環境に紛れ込むのも時間の問題です。
 これは遺伝子汚染と言って、固有種を無くすことにもなりますし、メダカが南北で分かれていることは日本列島の成立を研究するうえでも重要な証拠であり、憂慮すべきことです。
 保護したいという善意を批判するわけにはいきませんが、ぜひ、正しい知識に基づいて活動していただくことが必要です。

 メダカと同じように、しばらく前まで身の回りにごく普通に棲息していたのに、見かけなくなった動物がいます。スズメです。
 メダカと同様、子供の頃には、米を撒いた上にザルを被せて獲ったりしていた、どこにでもいる鳥でしたが、立教大学理学部の三上修特別研究員が昨年調査した結果によると、現在、日本国内に1800万羽ほど棲息しているが、過去20年間で80%も減少し、50年間では90%も減少したとのことです。
 原因はメダカと同じように、生活環境の激変です。スズメは瓦屋根に巣を作るのですが、瓦屋根の家が減り、また過疎化で家自体が減っていることが影響していると考えられています。
 スズメは農作物の害虫を食べるという実利的な恩恵もあるのですが、人間に身近生物が棲息できなくなりつつあるということは、人間の生活にとっても問題であるという警報かもしれません。
 メダカとスズメという慣れ親しんだ生物の激減を、夏休みに環境問題を考える参考にしていただければと思います。





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