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論文

 今週の日曜日の新聞に、愛知県の三河湾に面した碧南市の河口付近で「スパルティナ・アングリカ」という草が生えていることが発見され、問題になっているという記事が掲載されていました。
 なぜ草が生えている程度のことが記事になるかというと、「スパルティナ・アングリカ」という草はもともとイギリスや北アメリカ東部の海岸沿いの塩分を含む干潟などに自生しているイネ科の植物で生育力が旺盛で、侵入してくると在来の植物が生育できなくなってしまうので、非常に危険な外来植物として警戒されていました。
 ところが今回、初めて国内で発見されたので、新聞記事になったというわけです。
 このように、国内に侵入されると日本の人間生活や自然環境や農林水産業に被害を及ぼす可能性がある動物と植物を政府が「特定外来生物」に指定する法律が2005年から施行され、「スパルティナ・アングリカ」も2006年に指定されていました。
 現在のところ148種が「特定外来生物」に指定され、その輸入、飼育、栽培、保管などを規制しています。
 馴染みがある生物では、1995年に国内で初めて発見され、すでにほぼ全国に分布してしまった「セアカゴケグモ」、2017年に日本で初めて発見されて騒ぎになった「ヒアリ」、最近では全国に広がって被害を及ぼしている「アライグマ」、全国の川や湖でフナなどを餌とするために駆除が叫ばれている「ブラックバス」や「ブルーギル」などがあります。

 世界では国際自然保護連合が「侵略的外来種ワースト100」を選定しており、離島などで野生になった「イエネコ」「ブタ」「ヤギ」、毛皮用に飼育されていて逃げ出して野生になった「ヌートリア」、食用として輸入されたものが野生になった「ウシガエル」、害虫駆除のために移入されて野生になった「オオヒキガエル」、 黄熱病やデング熱を媒介する「ヒトスジシマカ」、日本にも上陸した「ヒアリ」、植物では、かつて金魚鉢などに浮かべていた「ホテイアオイ」、日本人には意外ですが海藻の「ワカメ」なども指定されています。

 完全に悪者扱いですが、かつては外国から持ち込まれ、完全に日本に馴染んでしまい、外来生物とは思われていない種類も多数あります。
 2009年に奈良県にある纒向(まきむく)遺跡から2800個にもなる「モモ」の種が出土しましたが、これは縄文時代に日本に伝来してきた植物で、当時は大変に貴重な果物とされていました。
 「ウメ」も飛鳥時代に遣隋使や遣唐使が持ち帰り、「ボタン」も「アサガオ」も同様です。
 さらに日本の国の花(国花)になっている「キク」は平安時代に中国から渡来した植物で、鎌倉時代に後鳥羽上皇が天皇家の家紋としたために国花になったという由来があります。

 このような例もあるものの、一般に外来生物というと悪者扱いですが、実は役に立っている例もあるのです。
 「オゴノリ」という海藻がありますが、これは日本から輸出した「カキ」に付いてアメリカの大西洋岸に繁殖しはじめました。
 その大西洋岸では海水の温度上昇や汚染、海藻の採りすぎや病気で「カキ」の生育する岩礁が失われていたのですが、「オゴノリ」が繁殖したおかげで、稚エビや稚ガニや稚魚の生育環境になっており、カキの養殖に貢献しているという調査結果が発表されています。
 ハワイのカウアイ島には、1850年代に中国から「コブクビスッポン」がスープの材料として移入され、繁殖してきました。
 このスッポンは在来種の魚を食べてしまうので駆除するべきという意見もありますが、中国では食用に捕獲されすぎて絶滅の可能性があるため、ハワイで駆除してしまえば、地球全体で絶滅してしまうので、ここで保護しておいた方がいいという意見が多勢になりつつあります。
 カリフォルニア州の浜辺に絶滅が心配されているクラッパー・レイルという鳥が生育しており、その生息場所が愛知県で発見されたスパルティナの一種の草地です。
 カリフォルニアでもスパルティナは外来種なので、一部を伐採したり薬剤で枯らしたりしたところ、クラッパー・レイルの数が一気に減ってしまったという問題が発生し、残しておいた方がいいのではないかと考えられています。

 さらに注目されているのが「グリーンカーボン」や「ブルーカーボン」としての役割です。
 地球温暖化が深刻な事態になるという予測が発表されていますが、その解決のためには人間の活動から排出される二酸化炭素を吸収する必要があります。
 その排出される二酸化炭素の13%は森林に吸収され、30%が海に吸収されており、前者を「グリーンカーボン」、後者を「ブルーカーボン」と呼んでいます。
 そこで森林を伐採して山肌が現れているような斜面に成長の早い外来の樹木を植林すれば、二酸化炭素の固定が在来種よりも増えることになります。
 同様に「ブルーカーボン」は海中の植物プランクトンや海藻が吸収する二酸化炭素のことです。
 最近の科学雑誌に発表された研究では、外来種の海藻が侵入した海域と在来種のままの海域の二酸化炭素貯蔵能力を比較したところ、外来種は在来種よりも急速に二酸化炭素を吸収して成長するため、ブルーカーボンの能力が17%も増加したという事例が報告されています。

 基本的には本来の自然環境に適合した生物が生育することがいいのかもしれません。しかし、外来種の「キク」が国花になり、明治時代に持ち込まれた「コスモス」が「秋桜」という文字を当てはめて俳句の季語になり、2000年近く前の外来種の「モモ」が原産地に高価な果物として逆輸出されたりしている例もあります。つまり新しい文化を創るのに貢献しているということです。
 遣唐使時代とは桁違いのヒトやモノが交流している時代に外来生物を阻止するのは困難ですし、地球温暖化という世界全体の将来を左右する危機に直面している現在、外来生物という見方を変える必要があるかもしれません。





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