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論文

 6月1日、ゼネラル・モーターズが連邦破産法第11条の適用をニューヨーク連邦破産裁判所に申請し、経営破綻しました。
 この破綻と、来年日本で開催される生物に関する国際会議とが密接な関係にあるという「風が吹けば桶屋が儲かる」という話をご紹介したいと思います。
 来年2010年10月10日から、生物多様性条約第10回締約国会議、通称COP10が名古屋市で開催されることが決まり、最近、多様性という概念が注目されています。
 生物を守るためには、水鳥の生息地である湿地を守るための「ラムサール条約」が1971年に、絶滅が心配される生物の国際取引を規制する「ワシントン条約」が1973年に制定されていましたが、それだけでは十分ではないということで、1992年に「生物多様性条約」が成立しました。
 現在、190カ国とEU(欧州共同体)が締約していますが、それらの国々がおよそ2年に1回の頻度で会議を開催しているのですが、その10回目が来年、名古屋市で開催されるというわけです。

 この条約の目的は、多様な生物を生息環境と一体として保全する、生物資源を持続可能な状態で利用する、遺伝資源の利用による利益を公正かつ衡平に配分することとされていますが、その背景には生物が急速に絶滅しつつあるという事実があります。
 地球には5000万とも1億ともいわれる種類の生物が生息していると推測されていますが、そのうち人間が確認している生物はわずか200万種類くらいにしか過ぎません。
 ところが、国際自然保護連合(IUCN)というNGOの調査によると、その人間が認識している生物のうち、哺乳類の20%、鳥類の12%、爬虫類の30%、両生類の29%、魚類の39%が絶滅の恐れがあるとされています。
 これが何故問題なのかということですが、簡単に説明すると、地球の自然環境は1億種類にもなろうという多種多様な生物がお互いに密接に関係して維持されており、ピラミッドに例えられます。
 そうすると、ある生物が絶滅するということは、そのピラミッドを造っているレンガが途中から抜け落ちるということになりますから、次々と抜け落ちていくと、あるとき突然、ピラミッド全体が崩壊してしまう可能性があるというわけです。

 もうひとつ生物が多種多様であるのは、ある環境にあまりにも適した生物だけになってしまうと、環境が変化した時に一斉に滅びてしまう可能性があるからです。
 代表例はニュージーランドの飛べない鳥です。ニュージーランドは8500万年前にゴンドワナ大陸から切り離されたため、哺乳類は2種類のコウモリしかいなかったため、襲われる心配がありませんでした。
 そのため、ニュージーランドには「キウイ」「タカヘ」「カカポ」など飛べない鳥が何種類も安全に生活していました。
 ところが1000年ほど前にマオリ族の人々が渡来し、19世紀にはヨーロッパの人々が移民してきてイタチやキツネを持ちこんだため、簡単に捕獲されて絶滅寸前になってしまいました。
 それと同じようなことが、ある社会環境にあまりにも適合しすぎた人間社会や会社にも起こりえるというわけです。

 そこで多種多様であれば、環境が変化しても、どれかは生き延びることができるというのが生物の戦略になっています。
 そこからヒントを得て、会社も多種多様な人間で構成されていれば、国際環境や需要構造が変化しても対応できるということで、最近、CDO(多様性最高責任者)を置く会社が増えてきたということが「日本経済新聞」に紹介されています。
 これまでCEO(経営最高責任者)やCIO(最高情報責任者)などを置くのは普通になっていますが、このCDOは社員の性別、人種、年衛、学歴などを多様にして、それらの人材を活用することが役割で、CEOに直属する重要な職務です。
 アメリカの「カタリスト」というNPOが興味深い調査結果を発表しています。
 アメリカの「フォーチュン500」に挙げられている520社について、女性の取締役比率が多い上位25社と少ない下位25社のROE(自己資本利益率)を比較したところ、約14%と約9%で、女性が活躍している会社のほうが成績が大幅に良いということです。
 さらに企業の多様性の程度を4段階に分けたところ、金融危機で破綻したベア・スターンズや、話題のゼネラル・モーターズは、もっとも多様性の無い企業だと評価されました。
 これで桶屋までたどり着いたのですが、実は日本も他人事ではなく、世界的に多様性の無い社会になっているのです。

 毎年、国連開発計画という組織が、それぞれの国の男女格差を調査していますが、格差のない順番で日本は54位です。つまり、格差が大きい社会ということです。
 そのうち国会議員の女性比率は99位、賃金格差は70位、研究者の比率は27位という低い地位になっています。
 また、別の意味で日本が多様ではない社会の象徴が新聞の発行状況です。
 世界新聞協会の2005年の調査によると、発行部数で世界の上位6位までが、何と日本の新聞であり、さらに8位、11位、19位、20位も日本の新聞で、20位までの半分の10紙が日本の新聞になっています。
 かつて1000万部以上を発行していた中国の「人民日報」は現在では250万部で10位、ロシアの「プラウダ」は158万部で30位に後退しています。
 現在でも1000万部以上を発行している新聞が存在するのは日本だけになってしまいました。
 ある意味では、日本人は新聞をよく読んでいるということかも知れませんが、国民が同じような情報に接しているという意味では多様性を失っていると理解することもできます。
 人間社会でも多様性が発展の重要な条件になる時代に、日本の画一性を見直す必要があると思います。





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