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論文

 今週の日曜日24日には、日曜日にも関わらず首相官邸で地球温暖化問題に関する懇談会が開催され、日本が国際社会に提言する二酸化炭素削減の中期目標の議論が行われます。
 アメリカもEUも構想を作成しており、今年の12月7日から18日までの2週間デンマークのコペンハーゲンで開催されるCOP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)で検討されることになります。
 これはポスト京都議定書の枠組を決める重要な国際会議です。
 1997年に京都で開催されたCOP3で京都議定書が採択され、2012年まで各国が二酸化炭素をどれだけ削減するかの目標が設定されました。
 それでは2013年以後はどのようにするかを決定するのが年末に開催されるCOP15ですが、各国の利害に関係しますから、熾烈な国際交渉になることは確実です。
 当然、政府や産業界は熱心に検討しており、24日に開かれる懇談会も、そのための会議ですが、一般の国民にはまだまだ知られていないのが実情です。
 そこでCOP15に関連して、今週の土曜日23日から興味深い行事が始まります。

 COP15の開催国であるデンマークのメルビン駐日大使が主宰するCOP15サイクリングツアーです。
 23日に東京を出発し、以後、愛知県の安城、福島、札幌、宮崎、広島、今治、和歌山を経て、5月31日に京都を目指して日本各地でデンマーク大使と一緒にサイクリングをするという行事です。
 なぜサイクリングかというと、自転車は環境への負荷が非常に少ない交通手段だからということです。
 自動車は素晴らしい移動手段ですが、石油という有限の資源に依存しますし、二酸化炭素や窒素酸化物を排出し、地球温暖化に大きな影響を及ぼします。
 それに比べ、自転車は人間が吐き出す二酸化炭素だけです。
 しかし、自動車に乗っている人間も二酸化炭素は吐き出していますから、差し引きすればゼロということになります。

 さらに自転車が優れているのは、移動に必要なエネルギーが最も少ない移動手段だということです。
 例えば、人間が1・5トンの自動車に乗って1km移動すると1200kcalを消費しますし、体重60kgの人が1kmを歩いても45kcalのエネルギーを使います。
 ところが、体重60kgの人間が10kgの重さの自転車を漕いで1kmを移動すると10・5kcalしか必要としません。
 自動車の100分の1以下、歩く場合の4分の1以下です。
 参考にウマはどうかと計算しますと、体重600kgのウマに乗って移動すると462kcalですから、人間が移動する手段として自転車はもっともエネルギー消費が少ないものなのです。

 10年前のやや旧い資料ですが、外出するとき、どのような交通手段を使用しているかについて、世界各国を調べてみると、日本の自転車の比率は15%です。
 アメリカやカナダの1%と比較すれば多いのですが、今回のCOP15サイクリングツアーを主宰するデンマークは20%、自転車王国として有名なオランダは30%ですから、日本はまだまだ増やすことができる可能性があります。

 その利用の妨げている要因が3つあります。
 第一は日本のように雨が降る日数が多い地域では使いにくいということ、
 第二に坂道があると自転車は疲れるということ、
 第三に事故が心配だということです。
 雨の問題はなかなか本質的に解決する方法はありませんが、坂道の問題については電動自転車が登場して解決されました。最近では20kg以下の軽量になり、値段も6万円台から販売されていますので、急速に増えています。
 事故については、2008年の統計で、交通事故で亡くなった5155人のうち、自転車に乗っていて亡くなった人は717人で14%になっていますし、負傷者は交通事故全体で約95万人のうち16万人で17%と少ないとは言えません。

 この背景には日本では自転車専用道路が十分整備されていないという事情があります。
 オランダでは自転車専用道路が1万5000km以上あり、道路全体の10%近くになりますが、日本では自転車専用の道路は2500kmで道路全体の0・2%、歩行者と自転車の専用の道路を加えても7300kmで0・6%というのが現状です。

 ところで、この4月に韓国でも2050年までに二酸化炭素の排出を半減させる「低炭素グリーン成長戦略」が発表されましたが、その一環として、李明博(イミョンパク)大統領がラジオで自転車を活用することを国民に訴えています。
 その具体的な政策として、市街地では歩道と区分された自転車専用道を建設し、地下鉄の最後尾の1両は自転車専用道にすることなどが提案されています。
 すでに昨年の秋、ソウル市では自動車の車線を1車線減らして自転車専用道路を207km整備する「自転車利用活性化総合計画」を発表していますし、韓国政府も2020年頃までに全国に3000kmの自転車道路を整備する計画を検討しています。
 この構想には韓国の自転車生産を育成して、5年以内に自転車生産大国になろうという産業政策も背景にあります。
 そのような背景のなか、つい先週、国土交通省は高速道路の建設計画を71km追加し、拡幅工事を190km追加という発表をしました。
 新聞によると、この計画を議論する国土開発幹線自動車道建設会議で国会議員や学識経験者から批判が相次いだようですが、国内相手の官庁といえども世界の趨勢を研究して欲しいと思います。





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