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論文

 アメリカの保険会社AIGの重役へのボーナス支払いが大騒ぎになっています。
 昨年9月以降に1700億ドル(17兆円)の公的支援を受け、今後さらに300億ドルの追加支援を要求している会社が、重役に最高で640万ドル(6億3000万円)、73人に一人平均100万ドル(1億円)、合計で1億6500万ドル(160億円)を支払ったということですから、年俸3600万円のオバマ大統領ならずとも怒るのはもっともだと思います。
 それ以外にも、シティバンクグループのプリンス会長が64億ドルの巨額損失を出して、昨年秋に辞任したときに4200万ドル(46億円)の退職金を受け取り、同じく巨額の損失を出して破綻したメリルリンチ証券のオニール会長も退職金を1億6150万ドル(160億円)も受け取って辞任していますから、就任時の契約があるからと言っても、アメリカ経済人の倫理観は破綻しているとしか思えません。
 それに比べれば、裁判になっていた日本長期信用銀行の経営首脳の退職金返還問題が可愛くみえてしまうほどです。

 このような問題の元を辿れば、サブプライムローン問題が象徴するアメリカの強欲資本主義の結果ということです。
 その一例がレバレッジ理論で、簡単に言えば、借りた金を担保にして、さらに金を借りるという落語の「花見酒」を理論にしただけの空論ですが、それを考えたアメリカの2人の経済学者にノーベル経済学賞を与えていたわけですから、ノーベル経済学賞の選定委員会が頭を抱え、賞の廃止という意見が出てくるのももっともだと思います。

 そのような背景から最近になり大変に注目されているのが、イスラム教の教義を基礎とするイスラム金融です。
 これは「シャリーア」と言われるイスラム法に基づいた経済活動ですが、金融機関の個別の資金運用や資金調達についてはイスラム法学者で構成する諮問委員会で判断するという仕組です。
 具体的には、
  1)イスラム教の教義に反する豚肉、酒類、ポルノなどのビジネスへの投資禁止
  2)役務を伴わず、時間が経過するだけで資産が増加する利子(リバー)は禁止
  3)利益は投資する人間と事業をする人間が事前の取り決めによって配分
  4)損失は投資する人間が負担し、事業をした人間は自分の役務によって負担
  5)資金保有者には資金の退蔵を禁止し、全額を流通させることが義務
  6)退蔵した資金には年率2・5%ほどの喜捨が強制されるので、目減りしていく

 これはアメリカ式の強欲資本主義に慣らされた人間には理解しがたい理念かも知れませんが、豚肉や酒類への投資の禁止を除けば、本来の通貨の役割はシャリーアの理念が当てはまるものなのです。
 この理念を第一次世界大戦後にシルビオ・ゲゼルというドイツの学者が提唱しています。
 そして、この理念を1932年にオーストリアで実践した都市があります。
 人口5000人ほどのヴェルグルという都市ですが、このときもアメリカの勝手な行動が原因で勃発した世界大恐慌の影響で、失業者が溢れ、財政も破綻状態になりました。
 そこで市長が、その町の中でしか通用しない時間とともに価値が減っていく通貨を発行し、短期間で町の経済を立て直しました。
 この発想を周辺の町も見習おうとしたのですが、独自の通過が流通することに危機感を抱いたオーストリア政府が、通貨の発行は国家の専権事項であるとして、市長を起訴し、独自の通貨を回収してしまったため、それ以上発展しませんでした。

 すでにお分かりの方も多いと思いますが、この発想が生かされているのが、ここ十数年、日本でも各地で発行されている地域通貨なのです。
 したがって、まったく理論的背景の無い定額給付金について、いくつかの自治体が利用期限のあるおまけを付けて、地元での消費を増やそうとしているのは正しい政策なのです。

 通貨というのは、物々交換を便利にすることだけが本来の目的であり、モノやサービスが伴わない価値を増やすのは邪道なのですが、現在では邪道の株式投資や通貨投機という仮想経済が実体経済をはるかに上回っている逆転社会になっており、ここから脱却しないかぎり、このような問題は繰返し発生すると思います。

 このような強欲資本主義と決別して注目されているもう一つの例がグラミン銀行です。バングラディッシュにある銀行で、ムハマド・ユヌスというアメリカの大学で勉強し、助教授を務めていた経済学者が帰国して1976年から始めたプロジェクトが銀行に発展したものですが、その成果によってユヌスとグラミン銀行はノーベル平和賞を受賞しています。
 ノーベル経済学賞ではないところが、選考委員会の見識を示していますが、具体的には借り主が事業をするために5人の互助グループを結成すると、無担保でマイクロクレジットと言われる最高限度で50ドルという少額を貸し付ける仕組です。
 金利が年率20%で高いようですが、バングラディシュの高利貸しの金利が100から200%ですから、それほど高いという訳でもないようです。
 これまで女性を中心に500万人以上に貸し付けの実績がありますが、無担保にもかかわらず返済率は98・9%という高い比率です。
 そしてグラミン銀行の利益は全額が災害対策の基金となっています。
 1929年の世界大恐慌と同様に、今回もアメリカの身勝手な利益本位の投機が世界を混乱させているわけですが、金融システムは決してアメリカ式の強欲資本主義だけではないことを知るべきだと思います。





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