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論文

 オーストラリアから衛星電話でお伝えしていますが、多くの方はオーストラリアというと、シドニー、メルボルン、キャンベラなど大都市が集中している南東部やゴールドコーストのある東海岸を思い浮べますが、もう一つ有名な場所がオーストラリア大陸の中央部にある「エアーズロック」です。
 3日前に東海岸のケアンズに到着し、そこからエアーズロック空港に移動して、テレビジョン番組の撮影をしております。
 このエアーズロックは巨大な一枚岩として有名ですが、西洋人としては1873年にイギリスの探検家ウィリアム・ゴスが最初に発見したのですが、当時の植民地総督であったヘンリー・エアーズにちなんだ名前です。

 しかし、オーストラリアには西欧の人々が到着する、はるか数万年前から先住民族アボリジニが住んでおり、彼らにとっては「偉大な石」という意味の「ウルル」と呼ぶ聖地でした。
 国立公園でもあり、世界遺産にも登録されていますが、アボリジニの人々にとっては観光地ではなく、岩の裂け目などには様々な意味があり、精霊が宿っている場所と考えています。
 そこで土地の所有権について裁判になり、1985年にアボリジニのアナング族に返還され、名称も1993年からは正式に「ウルル」となっています。
 したがって、アボリジニの人々は観光客が登山するのにも反対で、私も周囲を歩きながら、アボリジニのガイドの方に案内してもらいました。

 このアボリジニの人々はオーストラリアの先住民族で、定住せずに狩猟や採集をしながら移住生活をしていましたが、1788年にイギリスからの移民が到着し、世界各地で発生したように、土地を収奪されて定住を余儀なくされるとともに、人口も減っていき、現在では2100万人のオーストラリアの人口のわずか0・02%の47万人が分散して生活しているという状態になっています。
 しかし、1960年代から「アウトステーション・ムーブメント」といわれる活動が始まり、定住させられていた場所を出て、自然の中で生活する人々が増えつつあります。

 私たちは、人類は狩猟採集生活から進歩して農耕牧畜生活に移行し、さらに工業生産文明を発明して発展したと教えられてきました。
 このような考え方に痛烈な批判をした本があります。1920年にはじめて出版されましたが、1977年になって復刊され、日本では1981年に翻訳されてベストセラーにもなった『パパラギ』という本です。
 パパラギというのはヨーロッパの文明人のことですが、南洋のサモア島の酋長ツイアビがはじめてヨーロッパへ行った時の感想を集めたという書物ですが、実際はドイツ人が書いた偽書です。

 いくつかの興味ある発言を紹介しますと
 「モノがたくさんなければ暮らしてゆけないのは貧しいからだ。パパラギは貧しい。だからモノに憑かれている。モノなしにはもう生きてゆけない」
 「ヨーロッパ人らしいヨーロッパ人ほどたくさんのモノを使う。だからパパラギの手は休むことなくモノを作る。それゆえパパラギの顔はたいてい疲れていて悲しそうだ」

 このような視点からアボリジニの人々の生活を眺めると、大変に豊かです。
 男性は狩猟に使う道具だけ、女性は採集に使う棒と採集した草の根や小動物を入れる袋だけが全財産で、どこへでも自由に移動して生活しています。
 私も日本ではパパラギ風の生活で疲れていますが(笑)、今回の撮影旅行の経験を生かしてアボリジニの人々の生活を見習いたいと思います。
 また以前にもご紹介したことがありますが、ブライアン・フェイガンというアメリカの考古学者が「農耕が始まり、人間が農地につなぎとめられるようになると、移動することで可能になっていた選択肢が狭まりはじめた。その結果、危険は高まり危機的な状況になった」と書いていますが、アボリジニの人々は選択肢の多い生活をしており、やはり時間とともに人間は進歩するということでもないということを実感します。

 オーストラリアというと、今年2月に発生した大規模な森林火災を思い出します。
 これは大都市が集中している南東部のビクトリア州の災害でしたが、アボリジニの人々は人為的にブッシュファイアといわれる野焼きをして自然を保全してきた歴史があります。
 日本でも春になると、奈良の春日山や九州の阿蘇山録など各地で野焼きをしますが、これも自然を再生するための方法です。
 現在は野焼きの季節にはまだ早いので、実際の野焼きの光景は経験できませんが、6月頃になると各地で行われます。
 これは野生の動物の狩りが容易になるとともに、森林を守ることにもなっているそうです。
 オーストラリアの森林ではユーカリが多いのですが、この木の葉は微生物を寄せ付けない成分を含んでいるので、落葉が分解されず、地面に溜まっていきます。
 そうすると火災になったときに炎が高く上がって森林全体を燃やし尽くして自然を破壊してしまいます。
 しかし人為的に小さな火災を頻繁に起こすと、大火にならず自然が維持されるということで、現在では国立公園の管理にも採用されているようです。
 いずれにしても、先住民族の、一見、時代遅れと思われる生活が実は最先端だということは数多くあり、勉強しながら旅行を続けていきたいと思います。





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