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論文

 昨日の3月25日は「電気記念日」でした。これは明治11(1878)年の3月25日に日本で初めて電灯が点灯した日を記念したものです。
 この日は東京の銀座木挽町(銀座8丁目)に電信中央局が開局した日ですが、それを記念して、当時、虎ノ門にあった工部大学校(現在の東京大学工学部)の講堂に大臣や各国大使を招いて祝宴が開かれました。
 その会場で、お雇い外国人として来日し東京大学教授であったウィリアム・エドワード・エアトンが学生を指導して電池を電源として50個の電灯を灯したのです。
 電灯と言っても、現在の白熱電球とは違ったものです。白熱電球の元祖は諸説があり、1854年にアメリカに移住していたドイツ人ハインリッヒ・ゴーベルが竹ひごを炭化したフィラメントで電球を作っておりますし、1878年にはイギリス人のジョセフ・スワンが電球内を真空にした電球を制作していますが、一般には1879年にトーマス・エジソンが発明したことになっています。
 したがって、1878年の日本には白熱電球は存在せず、このとき点灯されたのは接近した電極の間で火花を飛ばすアーク灯でした。
 当時の記録によると「パッと明るくなって万雷の拍手が鳴り響いた次の瞬間、スーと消えた」ということです。

 その後、明治15(1882)年11月1日にデモンストレーションとして銀座に街路灯が灯され、さらに明治20(1887)年11月に東京電灯会社が東京市内に配電を開始し、日本も電気時代になります。
 以後、電気は順調に普及していくのですが、最近、新しい問題が発生してきました。情報通信社会の発展です。
 1年ほど前、情報通信技術は、例えば出張で移動する代わりにテレビジョン通信で会議をすればエネルギー節約になるし、CDを買う代わりにネットワークでダウンロードして音楽を聴けば資源やエネルギーの消費を減らす効果があるという話を紹介させていただきました。
 ところが、情報通信技術を利用すると電気の消費は増えますから、これからオフィスや家庭にコンピュータが現在以上に普及し、インターネットも絶えず使うということになると、電力消費が膨大になります。

 経済産業省の予測では、2006年にはルーター、サーバー、コンピュータなどに使われる電力は470億kwhで、日本の総発電量の5%ほどでしたが、2025年には4兆6000億kwhと5・2倍に増え、全体の20%以上が情報通信のために使われるということです。
 世界についても同様の予測がなされており、2006年の4900億kwhが2025年には9・4倍の4兆6000億kwhになるということです。これは現在の世界の総発電量の約4分の1に匹敵する電力です。
 また、グーグル1社だけでも年間10億kwh程度の電力を使っていると推定されていますが、これは日本の総発電量の1000分の1になりますから、情報産業が電力消費産業であることが分かると思います。

 そこでグリーンICTという言葉が誕生し、情報通信が使用する電力を減らそうという努力が始まっています。
 2月に有機ELを使った端末装置についてご紹介しましたが、これはブラウン管の8分の1、液晶ディスプレイの3分の1程度の電力消費ですから、このような装置の開発を急いで普及していくことも重要です。
 通信ネットワークも銅線を使うADSLと光ファイバーを比較すると、同じ量の情報を伝えるときに出す二酸化炭素は25分の1程度ですから、光ファイバー網を普及させる必要もあります。
 また、そのネットワークに接続するサーバーも最新のブレードサーバーでは、従来のサーバーに比較して電力消費が半分ほどです。

 このような情報ネットワークの技術開発と対抗して、電力ネットワークの技術革新も始まりつつあります。
 オバマ大統領の発表したグリーンニューディール政策の一つとして「スマートグリッド」という技術が提案されています。
 これは今年の1月のスーパーボウルのときに、GE(ゼネラルエレクトリック)が300万ドル(3億円)かけて放送した広告が、この技術を世間に広く知らせたのですが、簡単に説明すれば、電力ネットワークをコンピュータで制御して無駄を減らそうという技術です。
 現在、電力会社は過去の傾向や天候などを参考にして電力需要を推定し、停電しないように多めに発電して供給していまので、無駄があります。
 そこで、まず家庭、オフィス、工場などにスマートメーターといわれる装置を設置して、時々刻々と変わる需要をリアルタイムで把握して、それに合わせて発電します。
 次の一歩は家庭やオフィスの需要を電力会社のほうから制御します。例えば、あと30分もすれば気温が急速に上がると予測されたら、家庭のエアコンを電力会社が制御して設定温度を上げます。
 家庭やオフィスは見返りに協力奨励金を受け取るという仕組です。

 カリフォルニア州などでは、すでに実用になっていますし、日本でも関西電力の供給範囲の一部では、電気機器の制御は行っていませんが、スマートメーターを設置しています。
 当面は電気使用量の自動検針と需要の予測が目的ですが、いずれは電力会社から電気製品の制御をすることも想定しています。
 このような基盤を整備しておけば、今後、太陽光発電や風力発電のような不安定な発電が増加し、それが電力網に接続されたときにも役立つという狙いもあります。
 オバマ大統領の政策に盛り込まれたということで、アメリカは積極的に推進しそうですが、日本は出遅れ気味です。ぜひ関心を持っていただきたいと思います。





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