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昨年からの未曾有の不況で、「派遣切り」や「雇い止め」などの言葉が流行するほど、労働条件が厳しいものになっています。 そのような中で、年頭からマスメディアに頻繁に登場するようになった言葉が「ワークシェアリング」とか「ジョブシェアリング」です。 日本経団連の御手洗会長は「ワークシェアリングは選択肢の一つ」と繰り返し、連合の高木会長も「ワークシェアリングはテーマの一つ」と発言しています。 これは仕事を分け合うという意味で、一つの仕事を複数の人間で分担して、一人あたりの賃金が減ることを受け入れる代わりに、なるべく解雇をしないようにするという手段です。 1982年にオランダで最初に実施され、労働者側が賃金を下げることを了解し、企業側は雇用を確保し、政府は賃金の低下を補うために減税を実施するという政労使の合意で実現しています。 日本では2002年に、不況対策として当時の日経連、政府、連合が「ワークシェアリングに関する合意」をしていますが、十分に機能しませんでした。 今回も舛添厚生労働大臣は「政労使のオールジャパンで知恵を出し合って」対応したいと言っていますが、連合は景気が回復しても賃金が下がったままに据え置かれる可能性があるなどの理由で前向きではないし、日本経団連も個々の会社の事情で実施すべきという意見で、なかなか歩み寄りは難しい状況です。 しかし、『論語』に「寡きを患えずして、均しからざるを患う」という言葉があるように、痛みを分かち合うという考えは必要ではないかと思います。 そのような視点で注目されるのが「フェアトレード」です。これは公平な貿易という意味です。 普通、取引をするときは買手が強く、出来るかぎり値切って安く買うというのが常識です。 しかし、そのようにして買いたたくと、売手の生活水準は落ちて仕事の質にも響くし、次の生産のために素材を購入することも難しくなり、結果として、買う側も良質の材料などが手に入らなくなるという悪循環になります。 そこで登場したのが、売手の要求する金額で素材や商品を購入するというフェアトレードです。 これは戦後、アメリカの会社が発展途上国の製品を輸入するときに始めたもので、最近ではヨーロッパで次第に浸透している活動です。 特に一昨年9月に亡くなった、アニータ・ロディックさんが創業した天然素材を使用した化粧品などの会社「ボディショップ」はフェアトレードの推進で有名でした。 売手の言い値で購入したら、商売の競争に負けてしまうのではと思われるかもしれませんが、以外にもそうではないのです。 一例として、エチオピアのコーヒー豆の売買の場合を紹介したいと思います。 コーヒー豆の値段は5年前にはキロあたり130円前後でしたが、中国の消費量が増加してきたことも影響して、最近では200円を越える状態です。相場の変動が大きいので、今日は200円として計算してみます。 エチオピアのコーヒー栽培農家が生産を持続できるフェアトレード価格は300円前後です。 1・5倍もしたら商売にならないと思われますが、1キロのコーヒー豆から約80杯のコーヒーが抽出できますので、1杯当たりの余分の負担は1円30銭にもなりません。 そうすれば、われわれがコーヒーショップでコーヒーを1杯飲むときに、これまで300円であったものを310円支払えば、十分に成り立つことになります。 豊かな国の人々が、ほんのわずか痛みを分け合うだけで、発展途上国の農業に貢献できるというわけです。 日本でも、そのような事例があります。 現在、日本の森林は人工林が40%強ですが、外国の木材に比べて高いために、国産の木材の利用比率は20%程度にしかなりません。そのため下草刈りや間伐などが十分にできず、荒廃しています。 これは森林の保水能力が低下して土砂災害の原因になったり、二酸化炭素を吸収する能力が落ちるなどの問題にもつながります。 これを解決しようと、東京にある環境NPO「オフィス町内会」が「森の町内会」という仕組を2005年12月に作りました。 岩手県の岩泉町というと、一時はトリュフを発見されて話題になった町ですが、面積の90%が森林という山村です。 しかし、間伐をすればするほど赤字になるために森林の手入れが困難でした。 そこで、オフィス町内会と岩泉町森林組合と、比較的近い青森県八戸市にある三菱製紙の工場とが協力し、間伐材を原料とした紙を生産することにしました。 しかし、外材を原料とする紙よりは高くなるので、そのままでは売れません。 そこで支援企業を募集し、その企業から紙の注文があると、森林組合が間伐をし、その木材チップで三菱製紙が紙を生産して支援企業に購入してもらうという仕組です。 このとき支援企業が買う値段はキロあたり通常より15円高く、この代金が森林組合に回って間伐費用に充てられます。 普通のA4用紙で計算すると、1キロで120枚程度になりますから、1枚につき12銭ほど高いことになります。 現在、支援企業は70社ほどですが、それらの会社がほんのわずか余分に負担するだけで森林が保全出来ると考えれば安いものだと思います。 日本には「三方一両損」という大岡裁きの例もあるように、痛みを分かち合うという精神を持つ国民ですから、この気持ちで未曾有の不況に対応することも重要ではないかと思います。 |
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