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論文

 最近、マグネシウムという金属が様々な分野から注目されていますので、今日はマグネシウムの最新事情についてご紹介したいと思います。
 マグネシウムは元素番号12、元素記号がMg、比重は1・74という軽い金属ですが、植物の光合成に必要で、これが不足すると植物の生育が減退し、収穫量が減りますし、人間にとってもタンパク質の合成やエネルギー代謝に必要で、不足すると興奮しやすくなったり、虚血性心疾患になる可能性があるという重要な元素です。
 古い年代の方々がマグネシウムと聞いて思い浮べるのは、写真撮影のときのフラッシュです。小型電球のような形をしたバルブを装置に嵌め込んでシャッターを押すと、鈍い音とともに光るという懐かしい道具でした。しかし、1回限りなので、現在では使われなくなっています。

 ここ数年、注目されているのは、産業利用の分野で、とりわけラップトップコンピュータの筐体に使われるようになって話題になっています。
 マグネシウムは単体のままですと、錆びやすく、柔らかいのですが、アルミニウムと亜鉛を混ぜて合金にすると、これまで筐体に使われていた、アクリルニトリルとブタジエンとスチレンを混ぜたABS樹脂に比べて、曲げ強度は10倍も強いので、コンピュータを保護するのに役立ちますし、熱伝導率が200倍もあるので、集積回路が熱をもっても広い範囲に広がって冷却されるので薄い材料で耐えることができ、さらに樹脂よりは高級感があるということも手伝って盛んに使われるようになりました。

 比重は1・8前後と軽量のため、自動車の車輪のホイール、ハンドルのフレーム、座席のフレーム、などにも使われていますし、飛行機にも使われています。
 そして、これまではリサイクルすると品質が悪くなると言われていたのですが、現在では成分を調整することによって、強度や加工のしやすさ、そして錆びにくさも変化しないように再生することができるようになり、環境時代にも大丈夫だということです。

 ところが最近、このマグネシウムを未来のエネルギー資源に利用しようという斬新な構想が登場してきました。
 東京工業大学の矢部孝教授が提案され、先日、その講演を拝聴しましたので、矢部教授の構想されているマグネシウム社会をご紹介したいと思います。
 マグネシウムを未来社会のエネルギー資源にする大前提として、原料が大量に存在しているかが重要です。
 地球の人間が利用できる程度の浅い地表からに存在する元素の重量の割合を示す数字をクラーク数といいますが、酸素が49・5、硅素が25・8、アルミニウムが7・6、鉄が4・7と続き、マグネシウムは8番目で1・9です。
 現在、中国で70%が生産されており、独占の心配がありそうですが、海水のなかに塩素、ナトリウムに次いで0・1%から0・2%のマグネシウムが含まれており、全量では1800兆トンという想像もできない大量に存在しています。
 これが、どれだけ大量かというと、後でご紹介するようにマグネシウムを燃料にすると、海中にあるマグネシウムは石油の30万年分に相当するそうですから、当分は大丈夫ですし、リサイクルも出来ますから、無尽蔵ということができます。

 これをエネルギー源にするためには燃料電池を使います。
 現在、燃料電池は水素に空気中の酸素を化合させて、電気を取り出しますが、マグネシウム燃料電池はマグネシウムに水を反応させると、酸化マグネシウム(MgO)と水素(H2)が発生するので、その水素を燃料電池に供給するという仕組です。
 現在の燃料電池を搭載した自動車で500kmを走るためには6kgの水素が必要ですが、それだけの水素を発生させるのに必要なマグネシウムは70kgで、容積にして40リットルですから、20リットルのポリタンク2個ほどのマグネシウムを搭載し、同時に必要な50リットルの水を搭載すれば十分ということになります。
 この水は燃料電池で水素と酸素が反応してできる水を循環することも可能です。
 マグネシウム燃料電池は実現していませんが、アメリカでは亜鉛をアルカリ溶液と反応させて水素を発生させて燃料電池を作動させる自動車の実験によって600kmを連続走行することに成功していますので、十分に可能性のある技術です。

 問題はマグネシウムを精製するために酸化マグネシウムをマグネシウムと酸素に分離する必要がありますが、それには大量のエネルギーが必要ということです。
 現在の方法では1トンのマグネシウムを得るために10トンの石炭が必要ですから、エネルギー源として意味がありませんし、二酸化炭素も発生することになってしまいます。
 そこで矢部教授が目指しているのが、酸化マグネシウムを2万℃に加熱してマグネシウムと酸素の結合を切り離すという方法ですが、その2万℃という熱を太陽エネルギーで確保しようということです。
 太陽光線を平板のフレネルレンズで一点に集めて太陽光励起レーザーを作動させて2万℃の熱を得て酸化マグネシウムを分解するという方法です。
 これらすべてが完成すれば、太陽エネルギーで海水を淡水にするプラントで副産物として生産されるマグネシウム化合物から太陽光励起レーザーでマグネシウムを精製し、それを燃料電池や発電所の燃料にし、廃棄物として出る酸化マグネシウムを太陽光励起レーザーで再度マグネシウムに再生すれば、完全に循環するシステムが実現することになります。
 これは夢物語ではなく、すでにドバイの付近で数百基のフレネルレンズをもつ施設が建設され始めており、マグネシウム燃料電池による自動車の走行実験も間もなく始まるので、新しいマグネシウム社会が日本発の画期的技術として登場する可能性があります。





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