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論文

 日本の食糧自給率は40%、穀物自給率は28%という数字は何度も紹介してきましたが、そのような状態にもかかわらず、正式には耕作放棄地と呼ばれる休耕田は2000年の34万ヘクタールから5年後の2005年には38万へクタールに増え農地全体の8%にもなっています。
 それを反映して、同じ5年間で農家の戸数は312万戸から285万戸へと10%近くも減り、そのうち年間50万円以上の農産物を販売している販売農家といわれる農家は234万戸から196万戸と16%も減りました。
 就業している人口でみても389万人から335万人と54万人、14%も減ってしまいました。
 さらなる問題は、その人々のうち65歳以上の高齢者の比率が53%から58%に、すなわち6割近くが高齢者になってしまっていることです。
 その結果、2004年の調査では農業経営者の平均年齢は62・2歳になり、後継者がいない農家の比率が47%と半分近くになっています。

 何とかしないといけないということで、様々な動きが出始めています。
 まず登場したのが、農業経営が閉鎖的であった状態から株式会社の参入を許可し解放的にするという政策です。
 戦前の農業は大地主や大資本が支配して問題があったため、1952年に施行された農地法によって株式会社の出資は25%までに制限されてきました。
 その後、2003年から始まった構造改革特区では株式会社による農業経営が認められていましたが、2005年から全国的に解禁され、1万1000社が参入しています。
 しかし、株式会社であっても実際に農業に従事する人が居なければ成り立たないわけですが、その確保にも新しい動きが出てきました。
 まず農業専門の人材紹介サービスの登場です。ライフ・ラボという会社は「第一次産業ネット」というホームページで農業・林業・漁業の求職情報を紹介しています。
 例えば、北海道で酪農の仕事をしたいと検索すると、25件の求職情報が出てくるので、それを参考にするという仕組です。
 ひと月に600万ページビューがあるということですから、関心のある人は多いということです。
 これまで一次産業は閉鎖的であったため、身内以外を後継者にするということに抵抗感があったようですが、最早、背に腹は変えられない状況になり、このような方法で後継者を採用する農家も登場しているようです。

 さらに本格的に育成しようという活動も出てきました。北海道の深川市に拓殖大学海道短期大学がありますが、環境農学科では農業研修を行っています。
 大学の農場でも実習をしていますが、夏休みの2週間を充てて北海道内の農家に滞在して実際の農業を体験できるようにしています。
 このような学生として勉強するというと、現在は社会人であるけれども、いずれは転職して農業をしようという人にはなかなか踏ん切りがつきません。
 そこで石川県にある国立大学法人金沢大学に新しい仕組が登場しました。一昨年から始まった「能登里山マイスター」というプログラムです。
 能登半島の先端にある珠洲市の三崎町にあった小泊小学校は2004年4月に130年の歴史を閉じ、廃校となっていましたが、その建物を金沢大学が「能登半島里山里海自然学校」として利用し、そこを拠点として行っているのが「能登里山マイスター」です。
 先週末、能登半島に行って調べてきましたので、このマイスター制度をご紹介したいと思います。

 再チャレンジという言葉が政府でよく使われています。これまでの社会のように、一度、社会人として就職するとなかなか転職できない従来の社会の構造を柔軟にして、人生の途中からでも新しい道に踏み出すことのできる社会を作ろうという考え方です。
 この「能登里山マイスター」も再チャレンジを実現しようという精神で、新たに農業、林業、漁業に挑戦してみたいという40歳前後までの人を対象に、現在の仕事を続けながら、農業などの教育と実習を2年間に亘って受けられるという制度です。
 合格すると、金曜日の夕方と土曜日の一日が授業に充てられます。
 1年目は授業が中心で、この授業は出席するのが便利なように能登空港の中にある教室で行われます。
 2年目になると金曜日は授業ですが、土曜日は能登半島里山里海自然学校で実習をします。
 授業は金沢大学や石川県立大学などからの教授陣や民間企業の経営者なども行いますが、自然学校に常駐する教員と地元で農業、林業、漁業を実際に行っている人々が中心に指導してくれます。常駐の教員はすべて博士号を持っているという豪華な布陣です。
 2年間の学習の仕上げとして就農計画を提出して認められると「里山マイスター」の称号が与えられるということになります。
 40歳未満の人がこの称号を得て能登半島で農業や林業を始める場合は、石川県が就農支援資金として3700万円を限度として無利子融資をしてくれますし、地元の自治体が空き家や農地を斡旋してくれます。
 現在、1期生と2期生が在学していますが、地元の人や役所から派遣されている人が多く、必ずしも農業に転職する人ばかりではありません。
 そこで金沢大学では全国各地から本当に農林漁業で新しく仕事を始めたいというチャレンジ精神ある人の参加を期待しています。
 今年の12月から第3期生の募集が始まりますが、この制度は文部科学省の地域再生人材創出拠点形成プログラムの一環として行われており、5年の時限を決められた制度ですので、農業に関心のある方は早めに応募されたら如何かと思います。





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