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論文

 9月に入り、芸術の秋ということになり、数多くの展覧会が開かれていますが、やはりこの秋の話題の展覧会は8月2日から12月14日まで約4ヶ月半の間、東京の上野にある東京都美術館で開かれている「フェルメール展:光の天才画家とデルフトの巨匠たち」ではないかと思います。
 今回の目玉は日本で初めて公開される4点を含めた7点のヨハネス・フェルメールの作品と、同時代のオランダの画家の作品31点の合計38点が展示されています。

 展覧会の名前になっているフェルメールの作品が7点しか展示されていないのに、なぜ話題になるかというと、そもそもフェルメールという画家の作品は世界に30数点しか存在していないうえ、世界の17の美術館に分散しているため、7点が一堂に集まったというのは奇跡というほどの快挙だからです。
 フェルメールは残っている作品が少ないことも影響し、しばらく前までは、それほど有名ではなく、日本で最初に作品が展示されたのは1968年から69年にかけて国立西洋美術館と京都市美術館で開かれた「レンブラントとオランダ絵画巨匠展」で、今回も展示されている「ディアナとニンフたち」1点のみでした。
 この展覧会の名前からも分かるように、主役はレンブラントでした。
 日本で注目されるようになったのは2000年に日蘭交流400周年を記念して大阪市立美術館で5点の作品が展示された「フェルメールとその時代」という展覧会が開かれてからです。
 この展覧会には3ヶ月間で50万人の人が訪れ、フェルメール人気に火が付き、昨年開館した東京の六本木の国立新美術館の開館記念展覧会にも1点が展示されました。

 最初にフェルメール自身について紹介させていただきますと、1632年にオランダのデルフトという都市に生まれ、1675年に43歳で亡くなっていますが、生涯、このデルフトで生活しました。
 実家は宿屋と画商をしており、その影響で子供の頃から絵画には関係があったと思われます。
 16歳の頃から絵の修行をしているようですが、当時は6年間の修行をするのが普通でしたが、それほど長い期間は修行しなかったようで、だれに教わったかは分かっていません。
 しかし、才能はあり、1653年に21歳で結婚すると同時に、デルフトの画家の組合である「聖ルカ組合」に入会を許されています。
 当時は組合員にならないと、注文を取って自分の作品に署名をして販売をすることが許されていなかったので、21歳で独り立ちの画家になったわけです。
 そして1662年の30歳のときに組合の理事に選出されていますが、これは組合史上最年少ですから、それなりに才能が認められていたわけです。

 フェルメールが神秘の作家といわれるのは、生涯について詳細な記録がないことで、その一つは自画像が残っていないことです。
 同時代のレンブラントは何枚か自画像を残していますが、フェルメールには1枚もなく、今回はどちらも展示されていませんが1656年作の「取り持ち女」の左端の人物や、1666年から67年の作品「絵画芸術」の後ろ向きの画家がそうではないかと言われている程度です。
 第二の神秘は現存する作品の数が少ないことです。本物かどうか疑念が持たれている4点を加えても36点しか残っていません。参考までに、ゴッホは晩年の10年間で800点も描いていますから、37点がいかに少ないか分かると思います。
 裕福であったから、あまり描く必要がなかったからかというとそうではなく、夫婦の間には14人の子供が生まれ、11人が育っていますから、金銭的には苦労をしており、フェルメールが死んだとき、未亡人は残っていた絵をすべて売り払わなければならないほどの生活でした。
 しかし、絵画にはお金を注ぎ込んでおり、フェルメールといえば「フェルメールブルー」といわれる青色を多く使っていますが、これはラピスラズリを粉にした顔料で作った絵具で、普通の青色の絵具の100倍もしていたそうです。

 第三の神秘が、以前にもご紹介しましたが贋作が多いことです。
 オランダの画家ハン・ファン・メーヘレンがドイツの将校に自分の描いた作品をフェルメールの作品と騙して売ったことは有名ですが、オランダのボイマンス美術館が1938年に当時の金額で13億円以上の破格の値段で購入した「エマオのキリスト」もメーヘレンの偽作でした。
 この美術館では自戒の気持ちを込めて、1972年以来、この作品を展示しているそうです。

 第四の話題が盗難の多いことで、これまで5回の盗難事件があり、特に「手紙を書く婦人と召使い」は2度も盗まれています。
 また「恋文」という作品は額縁に沿ってナイフで切り取られて丸めて盗まれたため、修復も大変な難作業だったようです。
 これまで「恋文」「ギターを弾く女」「手紙を書く婦人と召使い」は戻ってきましたが、ボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館から1990年に盗まれた「合奏」は発見されないままです。
 2004年には、フェルメールの絵画「真珠の耳飾りの女」を題材にした映画が制作されていますが、今月末には盗まれた「合奏」の盗難事件を題材にした「消えたフェルメールを探して/絵画探偵ハロルド・スミス」も上映されます。
 世間には「フェルメール・ラバー」といって世界の美術館に分散しているフェルメールの絵画を見て回っている愛好家も多いのですが、今回は警戒厳重とはいえ、一度に7作品も鑑賞できますから、ぜひこの秋には出かけられたらと思います。





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