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論文

 無職なので毎日が夏休みの生活をしていますが、友人が美しい湖と川があるアメリカのグランド・ティトン国立公園に別荘があるので遊びに来いと言うので、先週末からカヤックをしに出かけてきました。
 アメリカの北西部にワイオミング州という州の形が完全な長方形をした地域がありますが、その北西の角に、1872年に世界で最初に制定された国立公園であるイエローストン国立公園があり、それに続いて南側にあるのがグランド・ティトン国立公園で1929年に国立公園に指定されています。
 年配の方々には「シェーン、カムバック!」の最後の場面で有名な映画、アラン・ラッド主演の『シェーン』の舞台と言えば、風景を想い出していただけるはずです。
 標高4197mの主峰グランド・ティトンを中心に、南北に3000m以上の岩山が連なっているのですが、その西側が標高2000mの盆地になっており、アメリカ有数の別荘地になっています。
 副大統領のディック・チェイニー、世界の長者番付を発表することで有名な雑誌『フォーブス』の創業者一族、アウトドアウェアで有名なパタゴニアを創業したイボン・ショイナードなどの別荘があります。
 僕が行ったときもチェイニー副大統領が「エアフォース2」で来ており、釣りにきていたショイナードの別荘には招かれて遊びに行ってきました。

 僕は氷河で削り取られた跡にできた湖や、そこから流れ出している川でカヤックをしてきましたが、目の前に標高差2000m以上にもなる名山がそびえており、日本で言えば、上高地の大正池でカヤックをしている状態を何倍か雄大にした雰囲気でした。

 しかし、今日は素晴らしい場所で遊んできた自慢話をさせていただくのではなく、そこに住んでいるケネス・トーマスマという今年78歳になる作家の家に伺って出会ったことをご紹介したいと思います。
 トーマスマは日本ではほとんど知られていませんが、アメリカでは10冊近い本を書いて知られています。
 もともとは作家ではなく、小中学校の教師や校長をした人ですが、アメリカ・インディアンの伝承に惹き付けられ、西部開拓時代にたくましく生きたインディアンの子供たちの物語を小説にしたことで、ワイオミング州の児童文学賞を受賞したりもしています。

 とりわけ有名な作品は『サカジャウェアの真実』という題名の伝記です。
 サカジャウェアという名前を知っておられる方も居られると思いますが、この少女を紹介するためには、有名な「ルイス・アンド・クラーク探検隊」について説明する必要があります。
 アメリカの第3代大統領トーマス・ジェファーソンは西部への発展を進めるために、当時のフロンティアであったミシシッピー川から西の地域の調査が必要だと考えていました。
 とりわけ、物資の輸送を考えると、ミシシッピー川の支流となるミズーリ川の源流からロッキー山脈を越えてコロンビア川の源流へ到達し、そのまま太平洋まで舟で到達する道を探すことが重要だと考え、1801年、秘書であったメリウェザー・ルイスとウィリアム・クラークを隊長とする探検隊を西部に派遣することを決定します。
 33人の隊員で構成された探検隊は1804年5月に出発し、1805年12月に大西洋に到達し、1806年9月に28ヶ月の苦闘の末に出発地点のセントルイスに帰還します。

 この探検が成功する陰にインディアンの16歳の少女サカジャウェアが居たのです。
 探検隊がマンダンというミズーリ川の上流で越冬をしていたとき、フランス系カナダ人の毛皮商人トゥッサン・シャルボノーが妻としていた妊娠中のサカジャウェアとともに探検隊の通訳として雇ってほしいと訪ねてきます。
 色々な経緯の後、雇われることになりますが、サカジャウェアは越冬中に子供を産み、生後わずか2ヶ月の子供を背負って同行することになります。
 彼女は野生の食用になる植物を探す能力に長けていたし、通過する地域のインディアンの部族との交渉もこなし、探検の成功に貢献します。
 しかし、冒険の終了後は報酬も支払われず、夫からも見捨てられ、子供とも切り離され、数年後に死んだとされていますが、明確な記録はありませんでした。
 ところがトーマスマの小説によって、その貢献が多くの人々に知られることになり、ついに2000年に発行されたアメリカの1ドル硬貨に子供を背負ったサカジャウェアが飾られ、ヨーロッパ系以外でアメリカの通貨の肖像になった最初の人物になり、アメリカ政府は、かつての無礼を詫びることになりました。
 アメリカ造幣局長官フィリップ・ディールは、トーマスマの史実に基づいた本が硬貨にサカジャウェアの肖像を採用するのに大きく影響したと述べています。
 ケネス・トーマスマの本は『アメリカの空へ:大探検を助けた少女サカジャウェア』という題名で出窓社から出版されています。ご関心がある方はお読みいただければと思います。

 最近、世界各国で先住民族の名誉や権利を回復する行動が動きだし、昨年9月13日には「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が国際連合総会において採択され、日本も今年6月6日に「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を国会で採択し、町村官房長官が政府の正式見解として「アイヌ民族は先住民族であるとの認識」を示す長官談話を発表しました。
 以前にもご紹介したことがありますが、世界各地の先住民族の文化や伝統を調べてみると、現在の環境問題を解決するのに参考になる叡智がふんだんにありますので、そのような視点からも関心を御持ちいただければと思います。





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