TOPページへ論文ページへ
論文

 北京オリンピックで、睡眠不足の方も多いのではないかと思いますが、オリンピックになると、毎回、マスコット・キャラクターといわれる人形が発売されるのが慣例になっています。
 最初に登場したのは1968年のメキシコオリンピックで、メキシコにある古代文明遺跡チチェン・イツァから出土した赤い色をしたジャガーが選ばれました。
 それ以後、1976年のモントリオール・オリンピックではビーバー(愛称アミック)、1984年のロサンゼルス・オリンピックではアメリカの国鳥であるホワイト・イーグル(愛称サム)など有名になったマスコットが毎回登場しますが、いずれも1種類でした。
 ところが、2000年のシドニー・オリンピックではオーストラリア独特の動物、ワライカワセミ(愛称オリー)、カモノハシ(愛称ジド)、ハリモグラ(愛称ミリー)の3種類になり、そして今回の北京オリンピックでは魚、パンダ、チベットカモシカ、ツバメという4種類の動物に聖火を加えて、5種類のマスコット人形が作られています。

 なぜ数が増えるかという理由は簡単で商売になるからですが、特に1988年のソウル・オリンピックでは虎の子のキャラクター(ホドリ/ホスニ)の利権で大儲けをした人々が登場し、キャラクター・ビジネスに拍車がかかったと言われています。今回の北京オリンピックのキャラクターも上海では1日に770万円を売り上げた店も登場しています。

 そうなれば当然、偽物が登場するということになり、北京でも昨年8月にオリンピック関連商品の偽物の展示会が開かれ、4万点以上の偽物を公開で焼却しています。
 前置きが長くなったのですが、今日はオリンピック関連商品の話ではなく、そのような偽物から本物を守る特許制度について紹介させていただきます。
 理由は今日8月14日が日本の「特許の日」に制定されているからです。
 日本では明治18(1885)年に専売特許条例が制定され、8月14日に特許第一号が付与されたことを記念したものですが、それは堀田瑞松(ずいしょう)という人が取得した「堀田錆び止め塗料とその塗法」でした。
 この条例の制定に尽力したのが、後に日本銀行総裁や大蔵大臣を務め、2・26事件で暗殺された高橋是清で、1885年に初代特許庁長官に就任しています。
 きっかけはヘボン式ローマ字を創ったことで、現在でも日本で名前の知られているアメリカの宣教師ジェームズ・カーティス・ヘボンが日本で辞書を再版するときに相談を受け、日本の制度を調べたところ外国人の版権を保護する法律がないことが分かったことです。
 そして文部省のお雇い外国人であったデヴィッド・モーレー博士からも「日本には発明や商標を保護する規定がないため、外国人は日本人が外国品を真似たり盗用して、模造品を舶来品のように販売していることを迷惑に思っている」と指摘され、制度を作るために欧米視察に行くのですが、特許庁のホームページに興味深いエピソードが紹介されています。

 調査のためにベルリンに滞在していた高橋是清は、織物の見本を携えてヨーロッパを巡回して注文を取っていた京都の西陣織の老舗・川島織物の当主に会いますが、その川島が「私の織物や布地の意匠はドイツやフランスでたびたび盗まれています。盗作の見本をお送りしますから、本物とよく見比べてください」と言われ、意匠特許の重要性を認識したそうです。
 この逸話が示すように、盗作や模倣は古今東西、一般的に存在していたということが分かります。
 このために特許制度が工夫されますが、最初の制度を創ったのはイギリスのエドワード3世で、外国から先端技術を携えて渡来する職人の権利を保護して、職人が渡来しやすい条件を整備したもので、1331年のことです。
 しかし、より現在に近い制度を創設したのはベネチア共和国で、1443年にアントニウス・マリニの「水無しで動く製粉機」に最初の特許が与えられ、20年間の独占製造権が保証されました。
 実は地動説で有名なガリレオ・ガリレイも1594年に「螺旋型揚水および灌漑機械」の特許をベネチア共和国で取得し、やはり20年間の独占製造権を獲得しています。

 この20年間という期限は現在と同様ですが、これは発明した人の権限を保証しているというよりは、その権限を制限するという発想で決められたものです。
 発明は一人の人間が最初から創意工夫したものではなく、先人の様々な発見や発明を土台として出来たものであるから、新しい発明も永久に独占するのではなく、後の人々のために開放するのが社会の発展に貢献するという考え方により、20年間という期間を決めているということです。

 ところが最近、著作権の分野では年限を次々と延長する法律改正が行われ、本来の精神と逆方向に向かっています。
 例えば、アメリカでは1998年に著作権延長法を制定し、1977年以前に発表された作品の著作権を発表後75年であったものを95年に延長しました。
 世間では1928年に発表されたミッキーマウスの権利が2003年に切れるので、それを阻止するためにディズニー社がロビー活動をしたからだと理解され、「ミッキーマウス保護法」とか「ミッキーマウス延命法」と揶揄されました。
 この影響で世界各国が延長する傾向にあり、メキシコは100年、日本は映画に限り70年に延長しています。

 特許や著作権の本来の精神から、このような動向に反対の人々も少なくなく、コンピュータのソフトウェアなどではリナックスを代表としてパブリックドメインといわれる公開のソフトウェアも多数あります。
 特許の期限が短かければ、発明する人の意欲を削ぎますし、長過ぎれば社会の発展を阻害するという難しい問題ですが、知的財産(IP)が社会の重要な基盤になる時代に長過ぎる保護期間は見直すべきだと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.