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論文

 先週火曜日の7月15日には全国の20万隻の漁船が一斉に休漁をして話題になりました。
 理由は漁船を動かすための重油の値上がりです。
 今年に入ってからだけでもキロリットルあたり8万円弱から11万5000円と1・5倍に高騰し、漁業の生産費用の3割から4割が燃料代になるという深刻な事態です。
 日本の漁業の漁獲高は1980年には世界の15%で1位でしたが、2004年には、中国、ペルー、チリ、アメリカ、インドネシアに抜かれて5位で世界の4・6%に低落という状態です。
 国民の魚離れも進んでおり、1995年には1日107グラムを消費していたのですが、2005年には94グラムと減少しています。
 その影響もあり、この約20年間で漁業の生産額は3兆円から1兆6000億円と半分近くに減り、就業者数も44万人から21万人と半分以下になっています。

 このような問題を根本から解決することにはなりませんが、小さな単位で漁業を元気にしている例がありますので、ご紹介したいと思います。
 北海道は漁獲量で日本の4分の1、生産額で5分の1を占める最大の漁業基地ですが、タコについては全国の漁獲高5万トンのうち、44%の2万7000トンを水揚げしており、圧倒的な地位を誇っています。
 その産地のひとつとして有名なのが日本海側の留萌市の北側にある小平町です。
 本州ではタコ漁は「たこ壷」を使いますが、北海道では「たこ箱」といって、木やプラスチックで作った四角い箱を数10個1本の綱に結びつけて海中に沈め、漁をします。

 ここからが素晴らしい発想ですが、北海道留萌支庁の水産課で「たこ箱」のオーナー制度を始めようという案が登場しました。
 これは一般の人々に1口5000円で「たこ箱」の権利を買ってもらい、その購入した箱にタコが入れば、その人に送るという制度です。
 地元の漁業協同組合などの協力により、昨年、100口を売り出したところ、何と220倍の2万2000の応募がありました。
 それではと今年は強気で5月7日に300箱を売りに出したところ、ざっと1万人から応募があり、抽選で300人のオーナーが決まりました。
 試しにヤフーオークションに1口を出品したところ、3万5000円の値段がつくほどの人気でした。
 箱は一年に5回引き上げることになっており、これまで6月25日、7月9日、7月16日の3回が終わり、今週土曜日の7月26日に第4回目が行われます。
 1回目は合計11杯、2回目は40杯、3回目は36杯の漁獲があり、浜茹でされたタコが、入っていた箱のオーナーに送られました。
 仮に残りの2回も40杯のタコが獲れるとすると、合計167杯ですから、300人のオーナーのうち130人近くは1杯もタコが届かないということですが、5000円で5回の夢を買うと考えれば安い買い物といえると思います。

 主催者にしてみれば150万円という程度の収入ですが、日本全国から応募があり、その宣伝効果も考えれば、経済効果は1億円とも算定されています。
 この「たこ箱」オーナー制度の成功を見て燃えたのが近くの遠別漁業協同組合です。
 遠別は留萌から日本海沿いの232号線を100キロメートルほど北に行った町ですが、組合では「留萌にタコがあるなら、遠別にはヒラメがある」ということで青年部を中心に1口1万円で120口を募集したところ、882人の応募がありました。
 こちらは3隻の底建網漁船のうち、オーナーが好きな船を選んで応募し、1隻につき40名が抽選で登録されるという仕組でオーナーが決定しました。
 最低2匹は保証するという前提で6月21日に漁が行われ、それぞれの船で獲れたヒラメを40名で山分けしたところ、最小で2匹、最多で7匹の配分がありました。
 また、遠別まで来てくれる人には優先的に配分する口を21作ったところ、漁の当日には全国から40名の人が日本の端にある遠別漁港に集まりました。
 これは大好評で、来年もぜひ来たい、一晩、船長と酒を酌み交わしたいなどの声があり、来年は遠別まで来ることを条件に募集することを考えているようです。

 これらは小さな試みですが、食糧供給の今後を示す知恵が詰まっていると思います。
 現在、魚の70%はスーパーマケーットや量販店で販売され、そこで魚が100円で売れても60円程度は流通経費で、漁師の収入は4分の1の25円程度です。
 しかし、オーナー制度であれば、流通経費は荷造り費用と輸送費だけですから、生産者である漁師は適正な収入を得ることが出来、消費者であるオーナーは安く魚を手に入れることができます。
 また、遠別がおこなっている方法では、全国から漁業の見学に来ますから、観光収入も得られるし、漁業への理解も進みます。
 現在、重油代が高騰したことに対して、漁業界では国の補助を求める声が強いし、与党も激甚災害に匹敵するから緊急対策として2兆円から3兆円の補正予算を組むべきだという声も上がっています。
 日本の漁業を維持するために、そのような対策も必要かも知れませんが、今日ご紹介した2つの事例は、それぞれの地域で出来ることもあるということを暗示していると思います。
 「たこ箱オーナー制度」も「ヒラメオーナー制度」も好評で、来年も行われると思いますので、関心がある方は応募されては如何でしょうか?





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