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論文

 ローマで開催されていた国連食糧農業機関(FAO)主催の「世食糧安全保障に関するハイレベル会合」、通称「食糧サミット」が丁度1週間前に終わり、改めて世界の食糧事情が大変な事態になっているということが明らかになったと思います。

 先進諸国の中では異例の低い食糧自給率の日本でも、今さらながらということですが、官房長官が減反政策の見直しや食糧自給率の目標を従来の45%から50〜60%へ引き上げるという発言をするようになりました。
 しかし、全国農業協同組合連合会では減反を求め、全国でさらに10万ヘクタールの作付けを減らす運動をしていますし、与党の農林族議員などにも「米価が暴落しかねない発言は慎重に」とか、「減反政策は現在は止められない」などの発言もあり、危機感のない政治には本当に危機感を覚えます。

 それは別途、議論させていただくとして、現在、日本では4月下旬から各地で始まっている田植えが最終段階に入り、近畿地方の一部から九州地方では田植えの最盛期です。
 このような作物を育てる田畑では、収穫が終わった秋から冬にかけて、耕して土を作るという仕事を行うことが常識です。
 ところが最近、世界各地で不耕起農法、すなわち田畑を耕さない農法が急速に普及しはじめたのです。

 具体的には色々な耕作方法があります。日本の稲作では、秋に収穫が終わってから水を張ったままにしておく方法と、水を抜いておいて田植えの前に水を張る方法がありますが、いずれの場合にも、やや大きめに育てた苗を植えます。
 外国の小麦やトウモロコシの場合には、畑に機械で切れ目を入れ、その溝に一定間隔で種を落としていくという方法が主流です。
 そして多くの場合、肥料や除草剤などは使わないか、可能な限り少量で栽培しています。
 なぜ耕さなくても大丈夫かというと、耕す目的は雑草と不当に呼ばれる作物以外の植物が茂ることを抑え、土の深い部分まで空気を入れて土を柔らかくして根が育ちやすい土壌にすることです。
 しかし、耕して表面に植物が茂っていないときに、強風や大雨が到来すると、表土が流出して栄養分を失い、土がやせ細る結果になりますし、微生物が減ってしまうので、田畑に残ったワラなどを分解して栄養分にする能力が失われ、結果として化学肥料が必要ということになります。
 ところが耕さないままにしていくと、土の中の植物の根やミミズなどが土の中に小さな空間を作り、それを通って水が隅々まで行き渡ることになり、微生物も繁殖して栄養分も供給されるので、化学肥料が少量で済みます。

 この方法の利点は、耕したり、土を作るための手間を省くことができるので、時間の余裕ができますし、そのために使っていたトラクターなどの農耕機械を使わないので、燃料が高騰している最近では経済的にも利点があります。
 また、ミミズなどが繁殖しているので、水鳥やカエルなどが棲みつき、その糞で土壌が豊かになるという効果もあります。
 それ以上の利点は環境への影響です。水田の水を時々潅水する必要がないので、川や池に栄養分の豊富な水が流れ込まないので富栄養化を防ぐとか、田畑を放置しておくので、様々な生物が棲みつくなどの利点もありますが、注目されているのが、温暖化を防止することに役立つということです。

 土を耕すと地中の有機物質が二酸化炭素やメタンガスを発生しますが、耕さなければ発生せず、耕さない田畑ではメタンガスの発生が耕す田畑の15分の1になると言われています。
 アメリカでは、トウモロコシと大豆を栽培している田畑のすべてを不耕起にした場合、京都議定書でアメリカの目標値とされた温室効果ガス7%の削減を達成できるという計算もされています。
 そのような背景からアメリカでは急速に普及しており、アメリカの作付け面積1億7500万ヘクタールの14%に相当する2500万ヘクタールが不耕起農法で耕作されており、ブラジルで2400万ヘクタール、アルゼンチンで1800万ヘクタール、カナダで1300万ヘクタール、オーストラリアで900万ヘクタールになっています。
 その増加の勢いも急速で、10年前には世界全体で3700万ヘクタール程度でしたが、最近では1億ヘクタールに近付いています。
 ちなみに日本の農地面積は休耕田も含めてほぼ500万ヘクタールですから、世界では、いかに広大な農地が不耕起農地になっているかが分かると思います。

 しかし、いくつか問題点も挙げられています。
 まず田畑を不耕起で栽培できるようにするためには5年ほどの時間がかかること、耕した田畑よりは土が固くなるので、従来の田植え機械では田植えができないことなどという問題があります。
 自分たちで食べるコメだけを不耕起農法で生産しているグループが全国各地にありますが、そこではT字型の鉄パイプで作った道具で田に穴をあけて苗を植えています。
 また、無農薬で栽培するとムシが増えて、周囲が普通の栽培方法の場合には迷惑がかかるため、調整が必要ということになります。

 最大の関心は収穫量ですが、コメの場合は1割程度の減収になっているようです。
 しかし、アメリカで15年以上、不耕起農法をしてきた畑では、トウモロコシや大豆が1割近く増収になっているという報告もあります。
 最後は味ですが、これは個人の好みもあって一概には言えませんが、不耕起農法で栽培しておられる農家の方の言葉では最高の品質になっているそうです。
 日本の農業は食料自給率だけではなく、新しい世界の傾向に遅れている部分もなくもないということが、不耕起農法の普及を見ても分かると思いますが、何とか食料安全保障の視点から農業が元気になることを期待したいと思います。





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