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論文

 年金問題や後期高齢者医療制度(長寿医療制度)など、高齢者に関わる問題が社会の重要な課題となり、政治の議論の対象になっています。
 その背景には、高齢者といわれる65歳以上の人口が2500万人を突破して、人口全体の20%を越え、そのうち後期高齢者といわれる75歳以上の人口も1000万人以上になって、比率が10%に近付いている現実があります。
 この状態は今後も進展し、およそ12年後の2020年には高齢者が3500万人で全体の28%、後期高齢者が1800万人で全体の14%強になり、65歳から74歳までの人数よりも、75歳以上の人数の方が多くなるという逆転現象さえ発生すると推測されています。

 この高齢人口の増加は世界の先進諸国に共通する現象ですが、日本は2003年の時点で、65歳以上の人口の比率が世界一になっています。
 それだけではなく、もうひとつ、日本が世界一となっている現象があります。高齢人口の割合が増加していく速度です。
 65歳以上の人口比率が7%に到達してから2倍の14%になる年数を倍加年数といいますが、フランスが115年、イタリアが61年、イギリスが47年、ドイツが40年であったのに比べ、日本はわずか24年で2倍になってしまいました。フランスの4倍以上の速度です。
 ちなみに、ロシア、カナダ、アメリカなどは、まだ14%に到達していません。
 適切な表現かどうか分かりませんが、日本は高齢社会の先進国なのです。
 そこで、そのような事情を背景にして、今年4月、東京大学に日本で最初の「ジェロントロジー寄付部門」という学部を越えて教育する組織が誕生しました。
 ジェロントロジーという言葉は耳慣れない方も多いと思いますが、ギリシャ語で「老人」を意味する「geron」と「学問」を意味する「logos」を合成した言葉で「老人学」と翻訳されています。
 この言葉が日本で初めてメディアに登場したのは1997年のこととされ、大学で研究や教育をしてきたのは、桜美林大学の大学院など数少ない学校だけでした。
 そこで東京大学では2006年から日本生命保険相互会社、セコム株式会社、大和ハウス工業株式会社からの寄付金1億5000万円で、医学だけではなく、理学、工学、法学、経済学、社会学など広範な分野が協力して、研究を進めていましたが、今年から本格的な教育も始めたというわけです。

 しかし、アメリカでは戦前の1939年に24人の科学者たちが集まって「加齢研究クラブ(クラブ・フォー・リサーチ・オン・エージング)」を結成して研究を始め、第二次世界大戦が終わりに近付いた1945年5月に「アメリカ・ジェロントロジー学会」を設立し、現在では5000人以上の会員の組織になっています。
 そして、全米にある3100の大学や短期大学のうち、半分以上の1600の大学にジェロントロジーの研究と教育をしている講座があり、日本は歴史でも規模でも相当に出遅れてしまったことになります。
 しかし、日本でも大学以外では以前から研究活動は行われており、東京都は1972年に、財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団のもとに「東京都老人綜合研究所」を開設して、老化の仕組み、アルツハイマー病や骨粗鬆症などの老人病の治療や予防の方法、高齢者の生活や福祉に関わる問題などを研究してきました。
 さらに、愛知県大府市に、既存の療養所を基礎にして、1995年から国立療養所中部病院長寿医療研究センターが設立され、2004年に13の研究部門をもつ国立長寿医療センターとして運営されています。
 ここには約60名の医師、200名以上の看護士、300床の入院施設がある病院も併設され、日本の長寿研究の中心になっています。

 そして、この分野を長年研究してきたアメリカのロバート・バトラー博士が、世界各国に少子高齢化問題を研究するセンターを設立し、それらが連携して調査や研究していこうという「国際長寿センター(インターナショナル・ロンジェビティ・センター)」の構想を提案したことに呼応し、1990年11月に日本の国際長寿センターが設立されました。
 このセンターは、日本以外にアメリカ、フランス、イギリス、ドミニカ、インド、南アフリカ、アルゼンチン、オランダ、イスラエルの9カ国にあります。
 その基本精神は「プロダクティブ・エイジング」といわれ「高齢者を社会の弱者や差別の対象としてとらえるのではなく、すべての人が老いてますます社会にとって必要な存在であり続けること」とされています。
 日本の長寿医療制度は、ぜひ、この精神を参考にしてほしいと思いますが、同時に高齢者も発言すべきだと思います。

 4月末に行われた山口2区の衆議院議員の補欠選挙では、長寿医療制度に対する高齢者の不満が意思表示されたと言われていますが、それでも日本の高齢者の意思表示は少ないのが現状です。
 アメリカでは退職者が作っているAARP(アメリカ退職者協会)などが強大な組織力を持って社会の動向を左右しています。
 日本の高齢者は現状で国民の5分の1、10年もすれば4分の1になる巨大な集団です。ぜひ、高齢者の方々がジェロントロジーに関心をお持ちいただき、新しい社会勢力になっていただければと思います。





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