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論文

 今週の日曜日に無事、ヴェニスから飛行機で日本に戻って参りましたが、飛行機というと最近はマイレージサービスがあり、航空会社が競争しています。
 マイレージという英語は、もちろん距離を表すマイルという単位から派生した言葉で走行距離という意味ですが、その前に色々な単語を付けると現在の社会の問題を示す言葉になります。
 そこで今日はマイレージから見える社会の将来を考えてみたいと思います。

 何と言っても日本にとって重要なマイレージは「フードマイレージ」です。
 これは海外から輸入している食料について、その重量と輸送距離を掛算した「トン・キロメートル」という単位で表した数字です。
1トンの食料を1000キロメートル輸送して輸入すれば1000トン・キロメートルというわけです。
 食料自給率が40%を切っている日本のフードマイレージは、容易に想像できるように世界一です。
 2001年についてしか計算がされていませんが、日本は約9000億トン・キロメートルで、アメリカの3倍、イギリスの5倍、フランスの9倍という数字です。
 これは国単位の数字ですが、一人あたりに換算すると、アメリカの7倍にもなります。

 この世界一にはいくつかの問題があります。第一は食料の国際価格の高騰の影響に大きく左右されることです。
 2006年に日本は農産物を約5兆円、水産物を約1兆7000億円も輸入していますが、輸入価格が上がれば、直接、家計に影響します。
 ご存知のように、この1年間だけで小麦は1・4倍、大豆は1・3倍、トウモロコシは1・7倍も値上がりし、その影響で今年の3月に様々な食料品が値上がりしました。
 今後もバイオエタノールの生産に穀物が流用されたり、中国やインドの需要が増加していけば、値下がりは考えられず、日本の日常生活には厳しい事態になります。

 第二の問題はお金を払っても買う事ができなくなる事態が予想されます。世界で5番目に小麦を輸出しているアルゼンチンが、昨年12月に小麦の輸出を停止しましたが、次の収穫の見通しが立つまでは禁止措置を延長すると発表しています。
 6番目の輸出国ロシアも小麦の輸出を抑制するために輸出関税をかけることを決定しました。
 コメについても、世界で2番目の輸出国であるベトナムは輸出禁止を6月まで延期し、8番目の輸出国エジプトも4月から10月まで輸出禁止、ブラジルもインドネシアもカンボジアも期限は様々ですが、輸出禁止措置を発表しています。
 これによって、まずアジア、アフリカ、中南米などの貧しい国々が食料不足になり、フィリピンでは4月に米穀商の車両が共産ゲリラに襲撃され、エジプトでも政府支援のパンをもらう行列で死傷者が発生しています。
 日本の場合、輸入価格が増大して、食料品が値上がりするだけならまだしも、必要量を確保できなくなる可能性も十分にあります。
 日本政府は世界貿易機関(WTO)に輸出規制には国際規則を儲けるべきだと緊急に要請しましたが、自国の無策を他国のせいにしている感がなきにしもあらずです。

 第3は環境問題への影響です。食料を長距離輸送するということは、そのための輸送エネルギーだけではなく、途中の冷蔵や冷凍のエネルギーも必要ですから、環境への負荷は無視できません。
 「大地を守る会」という団体が、様々な食品について、国産品と輸入品とで、二酸化炭素の排出量がどの程度違うかという興味深い計算をしています。
 いくつかを紹介しますと、北海道の小麦で作った食パンとアメリカのモンタナ州の小麦で作った食パンでは4・1倍の差。
 鹿児島産の豚肉とアメリカのノースカロライナの豚肉とでは5・7倍の差。
 北海道の小麦で作った醤油とアメリカのノースダコタの小麦で作った醤油とでは4・9倍の差。
 愛知県産のブロッコリーとアメリカのカリフォルニア産とでは9・4倍、群馬県産のシイタケと中国産のシイタケでは15倍、北海道産のタコとアフリカのモーリタニア産のタコでは4・8倍という具合です。

 木材についても藤原敬さんが「ウッドマイレージ」の計算をされておられ、それによると、群馬県で木造住宅を建てる人が県内産の木材を使う場合と、シベリアから輸入した木材を使う場合を比較すると、二酸化炭素の排出が7倍、北欧産の木材を使うと14倍という差になるそうです。
 最近、全国各地で推進されはじめた「地産地消」が、環境問題の視点からも重要だという事を示していると思います。
 これはもちろん食料自給率を上げるということでも重要ですが、地域の農業の発展にも役立ちますし、安全な食料を手に入れるという点でも効果があります。
 そして「身土不二」、すなわち、身体と土地は一体であるという言葉が象徴するように、自分の生活している土地の食べ物を食べるのが身体にとってもっとも良いと言われています。
 実際、今回の船旅でも、インドのムンバイやエジプトのカイロで何人かの方が、上陸して食べた現地の食事や飲み物の影響で、点滴を受けるほどの下痢をしておられました。
 やはり慣れない土地の食べ物は不安だということだと思います。
 人間が生活するうえで、もっとも重要な物質は水と食べ物です。戦後、それらを経済性だけで確保してきた日本は、食料安全保障の点でも、環境問題の点でも、健康という点でも方向を間違えてきたのではないかと思います。
 最近の世界規模の食料危機を契機に再考する必要があると思います。





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