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論文

 2月18日に東京工業大学などの研究者が新しい高温超伝導物質を発見したという発表がありました。
 そこで今日は、この高温超伝導という分野についてご紹介したいと思います。
 まず超伝導という現象ですが、これは特定の物質の電気抵抗がゼロになる現象です。したがって、超伝導物質で作った電線で環を作り、その中に電気を流すと、抵抗がないので、いつまでも電気が流れているということになります。
 この現象を説明するためには、最初に絶対温度という概念を知っていただく必要があります。
 物質を冷却していくと温度がどんどん下がっていきますが、それ以上は冷えないという限界に到達します。
 この温度が絶対零度と名付けられ、それを基準にして温度を表現することを絶対温度と言います。
 私たちが日常生活で使う温度は摂氏です。これは1気圧のときに水が凍る温度を零度、水が沸騰する温度を100度として、その間を100等分した尺度ですが、この尺度で絶対零度を表現するとマイナス273・15度になります。
 そして摂氏は、その尺度を1742年に考案したスウェーデンの天文学者アンデルス・セルシウスの頭文字を採って、アルファベットの「C」という文字で表しますが、絶対温度はイギリスの物理学者ケルビン卿の頭文字を採って「K」と表します。
 したがって水が凍る零度Cは273K、水が沸騰する100度Cは373Kということになります。

 本題の超伝導ですが、この現象が最初に発見されたのは100年近く前の1911年のことで、オランダの研究者ヘイケ・カメルリング・オンネスが水銀を液体ヘリウムで冷やしていたところ、4・2Kで水銀の電気抵抗が突然ゼロになることを発見しました。
 発見自体は科学的には素晴らしいことで、オンネスは1913年にノーベル物理学賞を受賞していますが、これを実際に利用しようとすると、絶えず高価な液体ヘリウムで冷却する必要があり、何とかもっと高温な状態、例えば安価な液体窒素の沸騰する77K(マイナス196度C)程度で超伝導現象を起こす物質が発見できないかと、研究者が必死で研究してきたわけです。

 その最初の突破口がスイスにあるIBMのチューリッヒ研究所のカール・アレクサンダー・ミューラーとヨハネス・ゲオルグ・ベドノルツが、1986年に10K程度で超伝導状態になる物質を発見したと発表したことです。
 これは本当に超伝導物質かどうか疑問だったのですが、東京大学の田中昭二教授や北沢宏一教授が追試をおこない、超伝導現象が発生していることを証明し、一気に高温超伝導ブームになりました。
 ミューラーとベドノルツは1987年にノーベル物理学賞を受賞しましたが、田中教授や北沢教授は期待されましたが残念ながら受賞できませんでした。

 この高温超伝導ブームのおかげで、世界の研究者が様々な化合物を集中的に実験し、ミューラーとベドノルツが発表した翌年には90Kまで上昇して液体窒素の沸点を突破し、現在では160K(マイナス113度C)まで最高記録が伸びています。

 今回の東京工業大学の細野秀雄教授たちの発見ですが、超伝導になる温度は32Kで、50Kまで上昇する可能性が示されていますが、なぜ新記録ではないのに話題になっているのかと思われると思います。
 この重要性は、鉄を使った化合物の超伝導物質を発見したということです。これまでは酸化物系と金属系といわれる2種類の超伝導物質だけでしたが、鉄の化合物という新しい分野で超伝導が確認されたということで、研究の範囲を拡大したことです。

 もうひとつ超伝導の研究では常温超伝導物資とか室温超伝導物質といわれる物質が期待されています。これはまさに300K前後(20度Cから30度C)の室温で超伝導現象を起こす物質の発見です。
 これまで何度も発見したという発表がありましたが、いずれも再現ができず、現在のところ、夢の段階です。

 なぜ高温超伝導物質や室温超伝導物質の発見が注目されるかということですが、すでに実用になっている超伝導物質を使った装置などが安価になり、さらに応用の範囲が広がるからです。
 液体ヘリウムで冷却する超伝導物質を使って実用になっている装置では、MRI(核磁気共鳴が贈装置)があります。これは永久磁石を使用するものもありますが、超伝導磁石を使う装置も実用になっています。
 また、山梨県にあるJR東海の実験線で時速581キロメートルの鉄道の最高速度記録を実現した磁気浮上式列車も列車の浮上に超伝導磁石を使っています。
 コンピュータの分野でも、液体ヘリウムで冷却しないと作動しない超伝導ジョセフソン素子を使う超高速コンピュータが研究されています。

 もし、安定した高温超伝導材料や室温超伝導材料が開発されれば、そのような装置が安価になるだけではなく、電気抵抗ゼロの巨大なコイルの中に電気を蓄えておいて、必要なときに取り出す電力貯蔵装置、送電の途中で電力ロスのほとんどない送電線など、夢のある技術が期待されるわけです。
 そのような意味で、今回の発見は大変に意義のあるものだと思います。





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