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論文

 年の初めなので「今年は何の年?」をご紹介したいと思います。
 1957年の「国際地球観測年」を皮切りにして、国連は毎年、国際年(インターナショナル・イヤー)を決定してきました。
 21世紀に入ってからでも、ボランティア国際年(01)、国際エコツーリズム年(02)、国際淡水年(03)、国際コメ年(04)、スポーツと体育の国際年(05)、砂漠と砂漠化に関する国際年(06)と続き、今年は「国際惑星地球年」と並んで「国際ジャガイモ年(インターナショナル・イヤー・オブ・ザ・ポテト)」になっています。
 そこで今日は、このポテト、ジャガイモについて考えてみたいと思います。

 なぜジャガイモが国際年の主役になるかということですが、これは世界で4番目に大量に収穫されている作物であり、かつ今後の世界の食料事情を考えると重要な作物になると考えられているだからです。
 2006年の数字では、3大穀物であるトウモロコシが世界全体で6億8900万トン、コメが6億3000万トン、小麦が6億トンですが、それに次いでジャガイモは3億1300万トン生産されています。
 主要な生産国は中国が世界の23%、ロシアが12%、インドが7%、ウクライナとアメリカが6%というような状況です。
 全体の生産量も急速に伸び、1990年と比較すると12%の増大ですが、重要なことは先進国では同じ期間に21%も減少しているのに、発展途上国では1・9倍に増大し、主要な食料の役割を果たすようになっていることです。
 実際、発展途上国では1960年代は一人一年に10キログラムしか食べていなかったのですが、最近は22キログラムを食べるようになっています。

 このジャガイモは南米のアンデスの高地にあるチチカカ湖周辺で8000年以上前から栽培されていました。
 その名残が名前にあります。南米の先住民族のタイノ族はジャガイモをバタタ(batata)と呼んでおり、それがポテトの語源ですし、ケチュア族はパパ(papa)と呼んでおり、これは現在もスペイン語でジャガイモのことです。
 日本語のジャガイモの名前は、これが16世紀末にオランダ人によってジャワ島のジャガトラ(現在のジャカルタ)からもたらされたため、ジャワイモとかジャガタライモと呼ばれ、ジャガイモになったといわれています。

 そして、この作物が西欧社会に伝わったのも、日本に伝わる少し前のことで、その最初についてはいろいろな説があります。
 イギリスの海賊から最後は海軍中将にまでなったフランシス・ドレイクが1578年に現在のチリのラ・ムーチャという島に寄港したときに住民から得たとか、1588年のイギリスとスペインの艦隊が海上で戦ったアルマダの海戦のときに、難破したスペインの戦艦に積んであったジャガイモがアイルランドの浜辺に漂着して、そこからヨーロッパ全体に広がったなどの説です。
 いずれにしても、1590年代にはヨーロッパに広がっていたようです。しかし、ジャガイモはナス科の植物で、この科の植物には、チョウセンアサガオ、イヌホオズキ、ヒヨドリジョウゴなど、毒を含む植物が多いため、初期には観賞用として栽培されていました。
 僕の小学校の恩師が卒業写真集に「砂地にも実るジャガイモの生活力を見習おう」という言葉を書いておられ、今でも覚えていますが、この言葉のように、ジャガイモは貧弱な土壌でも、寒い気候でも育つうえ、栄養価が高いということで、1662年にイギリスの王立協会が飢饉対策としてジャガイモの栽培を推奨したため、急速に広がるようになりました。
 そして、もっとも広がったのがアイルランドです。森本さんから頂いた年賀状に、アイルランドのアラン島の住民が「カラハ」という小舟で荒海の乗り出す素晴らしい写真がありましたが、あの岩盤でできた島でもジャガイモは何とか生育できるため、アイルランド人の主食はジャガイモになり、1780年頃にアイルランドを旅行した人が「1年のうち10ヶ月はジャガイモとミルク、残りの2ヶ月はジャガイモと塩を食べている」と記録しているほどです。

 このアイルランドのジャガイモに大問題が発生しました。ジャガイモ飢饉ですね。
 1845年から49年にかけてヨーロッパ全域で胴枯れ病といわれるジャガイモの伝染病が流行しました。
 原産地のアンデス地方では、経験から様々な種類のジャガイモを混ぜて栽培していたのですが、ヨーロッパでは収量の多い種類だけを偏って栽培していたために、一気に感染し、アイルランドのジャガイモは全滅状態になりました。
 そしてほとんどジャガイモだけを食べていたアイルランド人の被害は深刻で、1841年には800万人程度であったアイルランドの人口のうち150万人が飢えや病気で亡くなり、200万人近くがアメリカ、カナダ、オーストラリアに移住したと言われています。

 当時は原因が分からず、汽車が走るようになったせいだとか、電気を使うようになったせいだとか珍説が流布しましたが、その対策が実現したのは1880年代になってからでした。
 フランスのブドウ畑で子供たちがブドウを盗んで食べないように目立つ有毒物を散布しておいたところ、その薬をかけたところだけがウドンコ病という病気にかからないことが分かり、その硫酸銅と生石灰を混ぜたボルドー液で消毒すればいいという対策が発見されました。

 ジャガイモは世界に7500種類以上あり、最近では従来の「男爵薯」「メークイン」「キタアカリ」だけではなく、「インカのめざめ」「アンデス赤」など美味しい新品種も出ていますので、国際ジャガイモ年を機会に見直していただいたらどうかと思います。





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