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論文

 本年最後の放送なので、1年を振り返ってみたいと思いますが、恒例となっている「今年の漢字」は「偽」でした。これはその通りだと思いますが、別の漢字の「騰」を今年の漢字として選び、1年の出来事を振り返ってみたいと思います。
 「騰」は物価が上がるときの「高騰」とか、水がお湯になるときの「沸騰」などに使われる漢字ですが、高く上がるという意味です。
 そこで、今年、高く上がったモノを調べてみると、まずは金やプラチナです。金は1月にグラムあたり2473円でしたが、12月に入って3000円を突破し、1・24倍、プラチナも1月の4527円から現在5800円を上回り1・28倍になっています。
 過去10年間の値上がりを調べてみると、金は2・2倍、プラチナは4・1倍の値上がりですから、買っておけば良かったと思っておられる方も多いのではないかと推察します。
 それに連動して株価も上がれば良いのですが、今年1月の大発会のときの日経平均株価が1万7322円で、現在、1万5300円前後ですから、これは12%も低下という事態です。

 これらの値段の上下は投資しておられる方には問題ですが、一般の方々の日常生活に影響を及ぼす高騰も発生しています。
 石油は1月の段階ではバレルあたり60ドルを割り込んでいましたが、11月6日に96・7ドルになり、現在でも93ドル程度で、1・6倍程度に高騰しています。
 これは10年前の1997年の価格と比較すると、原油がバレルあたり20ドル強でしたから、4・7倍も上がったことになります。
 1973年のオイルショックのときには、3ヶ月で3ドルから12ドルと4倍に上がりましたから、それよりは緩やかですが、石油に浮かぶ現代文明としては深刻な事態です。
 当然、関連する商品も値上がりし、ガソリンの小売価格も年頭のリッターあたり130円前後から、現在、東京の都心では165円で販売されており、1・3倍近く上がっています。灯油も夏場はリッターあたり78円程度でしたが、現在、北海道では100円になっており、1・3倍の値上がりです。

 生活に深刻な影響があるのは食料品の値上がりです。多くの食品加工物の原料である小麦が、この1年間で2倍、大豆も2倍、トウモロコシは2・4倍の値上がりをしています。
 これはアメリカがバイオエタノールの生産を拡大し、2012年までに285億リットルをガソリンに混ぜて販売することを義務付けた影響ですが、その煽りを受けて、日本の食料品が値上がりしはじめました。

 以下は順不同ですが、すでに今年の秋に値上げが実施された食品では、明治乳業や森永乳業の100%果汁飲料の10%、キューピーや味の素のマヨネーズの10%、UCC上島珈琲のコーヒーの10%、森永乳業の家庭用チーズの9・7%、日清製粉のパスタソースの13%、山崎製パンの食パンの8%などがありますし、来年の値上げが発表されているのが、日清食品の即席めんの7〜11%、紀文食品のかまぼこの10%、マルコメの味噌の10〜15%、味の素冷凍食品のギョーザやエビフライなどの10〜20%など、まさに値上げラッシュです。
 原材料の高騰が急速のため、生産や販売の段階での企業努力では吸収できなくなったためで、やむを得ないことですが、家計は大変です。

 今後の事態を考えてみると、昨年から今年にかけてのオーストラリアの干ばつで小麦や菜種の収穫が大幅に減少しましたが、異常気象で今後さらに作物に影響が及ぶと考えられます。
 また、中国やインドの生活水準が向上し、食糧需要が増大すれば、原油も金属も穀物も国際価格が上がることは必至ですから、日本も自給率を上げるための本格的な政策が必要になると思います。

 もうひとつ上がったといえば気温です。これまで国内の最高気温は1933年に山形市で記録された40・8℃でしたが、8月16日に埼玉県の熊谷市と岐阜県の多治見市で40・9℃と日本記録を更新しました。これも地球温暖化が進めば、さらに高温になる可能性は十分にあります。

 本来「騰」の字は「騰天」といえば天に昇る、「騰声」といえば名声を得るなど、良い意味で使われることが多いのですが、今年の「騰」は芳しくないことばかりでした。
 そこで何か明るい高騰はないかと想い出してみますと、ありました。「かぐや」です。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が9月14日に種子島宇宙センターから打上げたH-UAロケット13号機に載せられた「かぐや」は無事、10月4日に月を回る軌道に到達し、ハイビジョンカメラで撮影した月面や地球の高精細度の映像を送ってきました。
 しかし、中国も10月24日に月探査衛星「じょうが1号」を「長征3-Aロケット」で打上げ、来春はインドが「チャンドラヤーン」という月探査衛星を、来年秋にはアメリカのNASA(航空宇宙局)が月探査衛星を打上げる予定で、現在は月探査ラッシュという状態です。
 これらは地球の誕生の謎を探るための科学探査を目指しているといわれていますが、月面の資源争奪戦の準備だという説もあります。それによって資源の値段の高騰が防げるのであればまだしも、きな臭い感じもします。そのようにならないように、来年は同じトウでも透明の「透」、見通しのいい社会になればと思います。





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