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論文

 今日はガラパゴスの話をさせていただこうと思います。
 ガラパゴス諸島は赤道直下の太平洋上にある20近い島々からなるエクアドル領有の場所で、面積は合計すると静岡県ほどになります。
 すでに1978年に世界最初の世界遺産の一つに登録されていますが、最近は環境問題への意識が高まって、ガラパゴスは観光ブームです。
 1980年頃の観光客は年間1万人にもなりませんでしたが、2006年には15万人に接近し、逆に環境破壊が問題になっています。
 そしてついに今年の6月にはユネスコの世界遺産委員会で「危機遺産リスト」に登録されてしまいました。これは「世界遺産としての普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている遺産」という意味です。

 それほど多数の人がガラパゴスに行く理由は珍しい動物を目の前で観察することができるということになります。
 ガラパゴスが有名になったのは、19世紀前半に世界一周の調査をしたイギリスの調査船ビーグル号に同乗した生物学者チャールズ・ダーウィンが1835年に1ヶ月ほど滞在し、ここで見かけた他の地域には棲息していない動物や植物にヒントを得て、生物は自然選択や生存競争によって環境に適合するようになるという進化論を発想する機会になったことです。

 実際、ここにはガラパゴスゾウガメ、ガラパゴスペンギン、ガラパゴスオオアオサギ、ガラパゴスオットセイ、ガラパゴスウチワサボテンなど、島の名前を持つ固有の動植物が多数います。
 ところが最近、この島の名前を使って、現代社会の特徴を示す「ガラパゴス現象」という言葉が流行するようになったのです。

 それに近い言葉として、かつて「ウィンブルドン現象」が流行したことがあります。
 ロンドン郊外ウィンブルドンで6月下旬から7月上旬にかけて開催されるテニス大会は世界四大国際大会のひとつで、120年以上の歴史がある由緒ある大会です。
 ところが開催国イギリスの選手は男子では1936年のフレッド・ペリー以来、女子では1977年のヴァージニア・ウェード以来、優勝から遠ざかっており、座敷は用意するが、主役になれない状態を「ウィンブルドン現象」というようになりました。
 日本の大相撲も同様で、現在、幕内力士41人のうち、外国籍の力士は14人、すなわち3分の1になっており、しかも東西両横綱はモンゴル出身ですから、まさにウィンブルドンです。

 これがスポーツだけならまだしも、政治や経済の分野でも同様の現象が発生し、オープンな自由競争による市場経済で、強力な外国企業が国内企業を淘汰していく国際社会の様子がウィンブルドン現象と言われるようになりました。
 そこに新たに登場したのが「ガラパゴス現象」です。
 ガラパゴスは南米大陸から1000キロメートル近く離れている絶海の孤島なので、天敵が襲来せず、環境に適合して、それぞれがノンビリと生活していました。
 ところが18世紀になると人間が上陸して生物を大量に捕獲したり、島に持ち込まれたブタやヤギが餌の植物を食べつくしたりして、ガラパゴスリクガメなどは最盛期の20分の1になってしまいました。
 このように、ある環境に過剰に適合してしまうと、その環境が変化したときに一気に衰退したり絶滅したりすることを「ガラパゴス現象」と呼ぶようになったのです。
 そして問題は日本社会が「ガラパゴス現象」の見本だと言われていることです。

 例えば、日本の携帯電話はPDC方式を採用していますが、世界のほとんどはGSM方式です。
 日本が固有の技術を採用している影響で、世界の携帯電話市場を見ると、フィンランドのノキアが約34%、アメリカのモトローラが18%、韓国のサムスンが13%を占有していますが、日本企業6社の合計は8%にしかなりません。
 テレビジョンの地上デジタル放送も日本は独自のISDB-T方式を採用していますが、日本以外ではブラジルだけで、完全に孤立です。
 携帯電話も地上デジタル放送も日本の技術は優れているといわれますが、それだけで環境の異なる他国に受入れられるわけではないということです。

 このような技術のガラパゴス現象も問題ですが、より深刻なのは政治、経済、文化のガラパゴス現象です。
 今年はアメリカのスティールパートナーズによる日本の老舗ブルドッグソースの買収が話題になりました。
 日本の最高裁判所がブルドッグソースの買収防衛策を認め、スティールパートナーズの抗告を棄却しました。この措置は日本の経済界では賛成が多かったのですが、世界から見ると異常な事態で、日本の環境に過剰に適合した経済制度や企業戦略の問題を浮かび上がらせたと思います。
 ガラパゴス現象をパラダイス鎖国と表現する識者もいますが、閉ざされた環境に適合した独自の制度や文化がすべて否定される訳ではなく、日本固有の食材で発展した日本料理は世界で最高の料理と評価されていますし、マンガ、アニメ、ゲームも世界で歓迎されています。
 課題は、それらが日本以外の社会に受入れられる戦略を考えて広めていくこと、すなわち攻撃は最大の防御ということではないかと思います。





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