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論文

 最初に先週の番組での発言についてお詫びをさせていただきたいと思います。
 ペットブームの話をさせていただいたなかで、アニマルセラピーというイルカなどの動物を使った療法を紹介しましたが、その際に期待される効果として「自閉症やうつ病が治る」という表現をしました。
 しかし、何人かのリスナーの方からご指摘をいただいたのですが、自閉症は先天的な脳機能障害のため「治る」という表現は不適切で「気持ちを落ち着けるなどの効果が期待される」というような言い方をするべきでした。
 「自閉症」は後天的なものではなく、ましてや育て方のせいなどでもありませんので、私の言葉足らずな言い方で傷ついた方々がいらっしゃいましたら、心からお詫び申し上げますとともに、ご指摘いただいたことに感謝いたします。

 今週の話題ですが、先週末、日本のマチュピチュといわれる山村に行ってきました。
 本家のマチュピチュは世界遺産の複合遺産にも指定されていますが、ペルーのウルバンバ渓谷の標高2000メートル以上もある山の頂上にインカ民族が建設した秘密都市とか空中楼閣と呼ばれる遺跡で、段差が3メートルの段々畑が40段もある場所です。

 日本のマチュピチュは何処にあるかというと、和歌山県の紀伊勝浦から北西の方に自動車で1時間近く山道を辿っていった紀伊山地の山奥の色川(いろがわ)という集落にありますが、これも世界遺産になっている熊野那智大社や那智の滝のさらに奥にあるといえば、大体の場所が想像いただけるのではないかと思います。
 遠く熊野灘の海も見渡せる眺めのいい場所ですが、行ってみると、道路の両側の急斜面に石垣で囲んだ段々畑があり、十分にマチュピチュの雰囲気はある場所です。

 なぜそのような山奥にいったかというと、安倍内閣から福田内閣に引き継がれた「再チャレンジ政策」に関係があるのです。
 日本は明治以来、画一な価値観、画一な教育をし、国民は同じような製品を使って似たような生活をしてきました。
 これは大量生産・大量消費を前提とした工業社会にはピッタリで、おかげで日本は世界の一流国に発展してきましたが、情報社会になって問題が出てきました。
 例えば、地方の学校を卒業して都会の会社に就職し、そこで定年まで働くという優等生にはいい制度でしたが、しばらくフリータをしたり、途中で失敗したり挫折したりすると、なかなか社会のメインストリームに乗れず、脱落してしまうという問題や、途中で職業を変えようとすると困難だという問題などがありました。

 そこで、人生の途中で進路を変更したり、失敗しても再び新しい人生に挑戦できる社会を作ろうというのが「再チャレンジ政策」です。
 その一環として、これまでのように地方から都会に出て、仕事が終われば、そのまま都会で生活するか故郷に戻るかという単純な人生ではなく、生活する場所も自由に選んだり、何箇所かの拠点で生活できる「暮らしの複線化」という政策が進められています。

 前置きが長くなってしまいましたが、その「暮らしの複線化」のシンポジウムが紀伊山地の山の中の色川で開かれ、講演に行ってきたというわけです。
 なぜ日本のマチュピチュといわれるほどの奥地・色川でシンポジウムが開かれたかというと、この集落は暮らしの複線化が大変上手く進んでいる地域だからです。
 色川村は1955年に合併して、現在は那智勝浦町の一部で色川地区となっています。243世帯で465人の集落ですが、何と世帯の4分の1に相当する58世帯、人口の3分の1に相当する152人が、Iターン組、すなわち、この地域と関係ない人で構成されているのです。

 現在、今年あたりから定年で退職する団塊の世代の移住を狙って全国各地の市町村がUターン、Jターン、Iターンを促進する活動を活発に行っています。
 例えば、北海道では71の市町村が「北海道移住促進協議会」を結成して一昨年から誘致活動をしていますが、これまでのところ、函館市への25名を筆頭に41市町村に273名の移住が実現しただけですから、465人の集落である色川地区に152人が移住してきたことが突出していることが分かると思います。

 理由の第一は農山村でも仕事があることです。ここにはかつて銅鉱山があったのですが、1972年に閉山してしまいました。
 しかし、そのような事態を予想して1952年に静岡から「やぶきた」種のお茶の苗木を4600本移植し、製茶工場も建設して新しい産業が育ってきていました。
 また1977年に初めて県外から5世帯が移住してきましたが、その人たちが「耕人社」を設立して有機農業を始めるとともに、全国から農業実習生を受け入れて移住を促進する活動をしてきました。
 さらに移住してくる人たちのための住宅も建設し、廃校を利用した「籠ふるさと塾」を拠点にして都会からの移住者の受け入れを、地域の人たちが積極的に支援していることも重要です。
 このような活動の結果、2003年には「オーライ!ニッポン大賞の審査委員会会長賞」も受賞しています。
 そして和歌山県では古座川町に「和歌山県ふるさと定住センター」を設立し、Iターンを考えている人たちが山村での生活を体験できる「山村体験研修」も開いています。
 ここには見学して相談するだけの1日コースや、農作業の実習もおこなう3日コースなどが用意され、交通費や宿泊費は自己負担ですが、無料で受講できるようにしていますし、すでにIターンしてきた人たちがさらに生活を充実させるために、農作物の加工技術や作物の栽培の基礎知識を習得できるような研修も用意されています。
 そのような研修の指導者として色川の人たちが参加しており、それも色川に人を集める効果をもたらしていると思います。

 国土交通省の調査によると、2003年時点で、日本には合計すると660万戸ほどの空家があり、そのうちほぼ半分の326万戸は東京圏、東海圏。関西圏の三大都市圏以外の地域にあります。
 もちろんすべてが貸家や売家になっているわけではありませんが、都会で生活のリスナーの皆様も長期にしろ短期にしろ暮らしの複線化を検討いただいたらどうでしょうか?





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