TOPページへ論文ページへ
論文

 今年は五代将軍徳川綱吉が「生類憐れみの令」を出してから320年目にあたります。
 実際は2年前の貞享2(1685)年から、江戸城内で特別の場合を除いて、鳥類、貝類、エビの料理を禁じたり、野良犬にもエサを与えるように御触れを出したりしていましたが、貞享4(1687)年になって、病気になった生類を捨てることを禁止、諸大名からの活魚、貝類の献上禁止、生きた鳥やカメの飼育の禁止などの御触れが次々に出され、生類哀れみの令が出された年とされています。
 そのため、イヌを斬り殺した下僕が八丈島に島流しにされ、吹き矢でツバメを打った人間が死刑や流罪になり、松虫やキリギリスを売った人間が牢に入れられるなどの事件が次々と発生しました。
 これは綱吉が世継ぎの徳松を亡くした影響も大きいのですが、綱吉自身も母親の桂昌院も戌(いぬ)年生まれのため犬好きで、100匹以上の犬を屋敷で飼って、専門の医者まで雇っていたそうです。
 綱吉は「生類憐れみの令」のおかげで、暴君のように思われていますが、最近、その命令の本質が見直され、名君であったという評価も出始めています。
 それはともかく、江戸時代には日本でペットブームが発生していたのですが、現在、再びペットブームなのです。

 数字でご紹介しますと、現在、国内にはイヌが約1200万匹、ネコが約1000万匹で、合計2200万匹がペットとして飼われていますが、65歳以上の日本人は2500万人ですから、高齢者に匹敵する数のペットが存在していることになります。
 その市場規模は1997年に6571億円でしたが、2005年には1兆2537億円になっていますから、9年間で1・9倍に拡大しました。
 現在、日本の週刊誌と月刊誌の売上が1兆2200億円ですから、それに匹敵する産業です。
 その中でもペットフードは重要な分野で、1993年の1762億円から2005年の2468億円と、13年間で1・4倍に成長しています。
 昨年のラジオの広告料収入が1744億円ですから、それを上回ってしまったというわけです。

 当然、2200万匹を相手にする商売は次々と登場し、衣食住を調べてみますと、衣類では、海外の有名なファッションブランドのイヌの防寒着が数万円で発売され、食のペットフードでは牛肉、マグロ、ささみ、しらすなどが入った缶詰が100円程度、子猫の離乳食は約1300円、7歳以上の高齢ネコには1袋約150円の専用食という具合ですし、健康を配慮した漢方薬品を混ぜたものさえあります。
 住については、成田の東京国際空港周辺に1泊2万円のペット用スイートルームが出現しました。普通の冷暖房だけではなく、空気清浄機、加湿器も設置され、ペットを預けた飼主は、部屋に設けられたウェブカメラの映像を海外からインターネットで見ることもできるそうです。
 東京の渋谷にはペットのための酸素カプセルも出現しました。イヌも疲れたときには、早稲田実業時代の斉藤佑樹投手が愛用していた酸素カプセルに30分2000円で入り、疲れを癒すというわけです。
 露天風呂で有名な岡山県の湯原町(ゆばらちょう)にはペット専用の露天風呂も作られ、しかも、溺れないように、小型犬用の水深30センチメートルの風呂と、大型犬用の50センチメートルのものが用意されているそうです。
 このような至れり尽くせりの環境のおかげで、ペットの平均寿命が延び、東京農工大の調査では、この10年間でイヌの寿命が3歳延びて11・9歳、ネコの寿命が2倍になり9・9歳になっているそうです。

 ペットを可愛がっておられる方には当然ということかも知れませんが、僕のようにペットに関心がない人間には異常な感じがします。
 そこで何故かということを考えてみると、第一の理由は少子化ではないかと思います。つまり子供の代わりにペットを飼うというわけです。
 ペットフード工業会のアンケート調査によると、イヌやネコを飼育している理由は「イヌやネコが好き」「一緒に居ると楽しい」「可愛い」「癒される」「子供のようなもの」が五大理由になっています。
 したがって、イヌやネコの飼育ができない集合住宅に生活している人々に人気があるのがペットロボットで、1999年にソニーが発売した「アイボ」は25万円という値段にもかかわらず、限定3000台が20分間で完売でした。
 最近、バンダイやセガなどのゲーム機器会社が1万円を切るイヌ型ロボットやネコ型ロボットを発売しましたが、これも人気商品です。

 第二は地域社会が衰退してきたことだと思います。たくさんの子供が居た時代は子供を仲介として、公園などで隣近所の人々が出会っていたのですが、子供が少なくなると、そのような地域社会に参加できなくなるわけです。
 ところが、最近はイヌの散歩によって、飼主同士が会話を交わして地域社会ができるようになり始めたと言われています。

 第三は、ストレスの溜まる現代社会で、ペットに癒しを求める傾向があるのだと思います。馬やイルカと接触することによって、鬱病や自閉症などが治るというアニマルセラピーも注目されていますが、それと同様にイヌやネコを飼うことによって癒されるというわけです。
 そのような目的で、つくばにある独立行政法人産業創造研究所が1993年から開発しているアザラシの形をしたロボット「パロ」は、介護老人保健施設などで実験をしていますが、効果を発揮しています。
 このように見てくると、ペットの増加は現代の社会を反映していると考えることができます。仕事でストレスの溜まっている方は、ペットを飼われるのも一考です。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.