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論文

 情報社会への転換が急速に進んでいますが、残念ながら日本は後進国になりつつあります。
 基礎となる教育や研究の分野で、人工知能分野の大学の研究教育能力を比較した最新の順位では、1位が中国の清華大学、2位がアメリカのカーネギーメロン大学、3位が中国の北京大学で、10位までにアメリカが5校、中国が4校登場しますが、日本はようやく14位に東京大学が登場するというのが現状です。
 企業や産業はどうかというと、今年11月末の企業の時価評価総額では1位から4位がマイクロソフト、アップル、アマゾン、アルファベットとアメリカの情報企業、6位がアリババ、9位がテンセントと中国の情報企業で、日本はようやく42位にトヨタ自動車という製造業の企業が登場するのが現状です。
 それでは社会全体ではどうかというと、スイスのシンクタンクが各国の情報競争力を比較した順位で、日本は27位になっており、アジアの国々で日本より上位に7位の香港、12位の台湾、19位の韓国が登場しています。

 この情報社会の出遅れを示す一つの指標がキャッスレス、紙幣や硬貨を使わず、クレジットカード、スイカのような電子マネーでの支払いの割合です。
 民間消費支出のうちキャッシュレスで決済された金額の比率を調べると、日本は2008年の12%から2016年の20%まで次第に伸びてきていますが、世界の中では大きく出遅れています。
 2016年の数字で、1位は韓国で96%、2位がイギリスの69%、3位が中国の60%で、50%以上の国はオーストラリア(59%)、シンガポール(59%)、カナダ(56%)、スウェーデン(52%)など7カ国ありますが、日本は20%でしかないというのが現状です。

 これについては、いくつかの理由が挙げられています。
 第一は日本では紙幣が新しく、偽札が少ないことです。
 アフリカや南アメリカの国々に到着して空港で両替すると、金額も読み取れないようなボロボロの紙幣を渡されることがよくあります。
 そのような国ではキャッシュレスの方が安心ということになります。
 しかし、日本は世界でも有数の新しい紙幣が大量に流通している国で、偽札も滅多に登場しません。
 それは流通している過程で紙幣が銀行など金融機関を経由して日本銀行に戻ってきたときに「銀行券自動監査機」という装置で検査をし、偽札の検査はもちろんですが、破損や汚れを調べて、一定水準以下の紙幣は裁断してトイレットペーパーにしたり、燃やして処分しているからです。
 その結果、1000円札や5000円札は1年から2年で、1万円札でも4年か5年で新札に入れ替わっています。   
 第二はキャッシュレスにするためには小売店がシステムに加盟し、決済するための端末を備える必要があります。
 そうするとシステムによっては加盟店が加盟料や手数料を支払う必要があるとともに、最近のようにキャッシュレス・サービスが次々と登場すると、それぞれの端末装置を用意しておくために費用がかかるという問題もあります。
 第三はキャッシュレスの場合、いつ、どこで、誰が支払ったかの証拠が残りますが、現金であれば匿名性が守られるという利点もあります。

 それでも経済産業省が音頭をとって今年の7月に「キャッシュレス推進協議会」を設立し、推進しようとしているのは、一つは東京五輪大会、大阪・関西万国博覧会の開催などにより、外国からの観光客を2020年には4000万人、2030年には6000万人にする目標が設定されていますが、キャッシュレス社会から来日する外国からの旅行者に不便になるという理由があります。

 しかし、より重要な理由があります。
 それを象徴したのがヤフーとソフトバンクが出資しているスマートフォン決済サービスの「ペイペイ」が今年の12月4日から始めた「100億円あげちゃうキャンペーン」です。
 買物の支払いをペイペイで行うと、金額の20%をポイントで還元するというサービスで、その還元ポイントの額の合計が100億円に到達したら終了するという内容で、来年3月31日で終了としていました。
 ところが、わずか10日後の12月13日で100億円に到達して終了してしまったのです。
 いずれポイントは加盟店で使われるとはいえ、20%も割引して大丈夫かと不思議に思われるかもしれませんが、目的は顧客の購買データを短期間で大量に集めるための仕組みなのです。
 最初にご紹介した時価総額上位のアメリカや中国の情報サービス企業に共通する特徴は、アマゾンであれば顧客の購買履歴、グーグルであれば利用者の検索履歴、フェイスブックであれば利用者の通信履歴を把握して、それぞれの人の趣味や性格に合わせた広告を個別に送ることによって効率のいい宣伝を実現し、広告料を稼いできたことです。
 2017年のアメリカのデジタル広告市場はフェイスブックが40%、グーグルが13%を支配する寡占状態ですが、その背景にあるのが個人の購買や検索の大量の履歴なのです。
 「ペイペイ」の100億円キャンペーンは短期間で大量の顧客情報を集めるための投資と考えれば納得できますし、日本全体でキャッシュレス社会に転換しようという動きも理解できます。

 最近、情報銀行という話題が頻繁にメディアに登場するようになりました。
 例えば、スイカを利用して鉄道に乗降した人の乗り降りの情報を、個人を特定できる部分は削除して企業に販売するビジネスです。
 今年10月に総務省が事業者認定の説明会を開き、今月から申請を受け付け、来年3月には認定するという予定で実現します。
 個人は特定されないにしろ、自分の行動が資源になるという社会が始まっているということを前提にキャッシュレス・サービスをはじめとする情報サービスを利用することが重要な時代になります。





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