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論文

 先週の10月2日(火)から6日(土)までの5日間、千葉県にある幕張メッセで「CEATEC JAPAN 2007」という大規模な展示会が開かれました。
 翻訳すれば、先端技術総合展示会となるCEATEC自体は2000年から始まっていますが、その前身のエレクトロニクスショーは1962年に、データショーは1972年に始まっており、歴史もありますし、規模もアジアでは最大の情報通信関係の展示会です。
 展示されている内容は情報通信分野の先端技術ですが、今年、会場で話題になった技術がありました。人体通信です。

 スピルバーグ監督の名作「E.T.」のクライマックスで、エリオット少年とE.T.が指先を触れ合わせてコミュニケーションしている場面が登場しますが、あれが人体通信です。
 「E.T.」をご覧になっていない方は、バチカンのシスティーナ礼拝堂の天井にミケランジェロが描いた「天地創造」という大天井画を想い出してください。
 あの中に「アダムの創造」という有名な場面があります。誕生したばかりのアダムが、自分を創造した天地万物の創造主をものうげに眺めているのですが、創造主の差し出す右手の人差し指と、アダムの左手の人差し指が触れそうに描いてあります。
 この場面は、創造主がアダムに神の意思を伝えているのだと言われています。すなわち、神と人間が指先を通じてコミュニケーションしているということです。
 両方とも知らないという方も居られると思いますので、具体的に説明させていただきますが、人体通信とは端的に表現すれば人間の身体を通信回線にしようということです。
 E.T.では頭の中で考えたことが身体の中を通って指先に到達し、相手の指先から頭の中へ伝わっていくという仕組ですが、それを現実のものにしようという技術です。

 すでに1990年代中頃から、アメリカのマチュチュセッツ工科大学やIBMで発想されていたのですが、日本では2004年9月に松下電工が「タッチ通信システム」という名前で装置を発表し、2005年5月にはNTTも「RedTacton」という装置を発表していました。
 そして今回、NTTが実用段階に達した装置で実演をし、話題になったというわけです。
 そこで実演されていた内容を紹介しますと、銅板を敷いた台の上に、端末装置を片手に持って立ち、もう一方の手をコンピュータに近付けると、端末装置の情報がコンピュータに送信されるという実験です。
 つまり、情報が人間の身体の中を通っていったというわけです。落雷で感電する事故を考えれば分かるように、人間の身体はそれなりに電気を通すので、このようなことが可能になるのです。

 この技術には、電流方式と電界方式という2種類があるのですが、電流方式は人間が通信対象に触れたときに微弱電流を流す方式で、電界方式は電界の中に人間が入ると表面に電界の変化が発生するので、その変化を情報伝達に使う方式です。
 電流にしても電界にしても、きわめて微弱なのでビリビリともしませんし、現在のところ人体にマイナスの影響は無いとされています。
 今回のCEATECで実演されたのは電界方式で、通信速度は40kbpsでしたが、10mbps程度まで可能とされていますので、十分に高速の通信が出来ます。

 どのようなことに利用可能かということですが、面白そうな応用を挙げてみます。
 まず名刺交換が不要になります。自分のポケットの中に名刺の情報の入った端末装置を持っていれば、握手をしたときに相手にその情報が流れ、相手の端末装置に記録することが可能です。もちろん、握手までしなくても指先を触れただけでも可能です。

 握手しただけでスパイに情報を盗られてしまうとか、痴漢が近付いてきて、手が触れただけで電話番号や住所を知られてしまうという心配がありますが、それは通信する相手を識別する信号を発信して確認するというような保護をしておけば問題ありません。
 さらにポケットの中にSuicaなどの電子切符のカードを入れておいて、改札機を通るときには、いちいちカードを出さなくても、指先をタッチパネルに触れば、通過できるということも可能です。
 Eddyのような電子通貨も同様で、コンビニエンスストアで支払うときに、タッチパネルを指で触れば支払いが完了します。
 その応用で、ドアの把手を握るだけで鍵を開けたり閉めたりできますし、自動車もドアの把手に触れば空くし、ハンドルを握ればエンジンがかかるということもできます。
 電車の中などで、カバンに入れた携帯音楽プレーヤーからイアホンを引っ張って音楽を聴いている人が多く居ますが、端末装置をポケットに入れておけば、音楽の信号が身体を伝ってイアホンに到達するという、線の無いプレーヤーも可能で、すでに2006年に特許がとられています。

 何時でも、何処でも、誰とでもコミュニケーションできるというユビキタス情報社会が、数年前から話題になっていますが、人体通信が実用になれば、大きく近付くことになり、この技術の今後を注目していただくといいと思います。





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