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論文

 一昨日は中秋の名月で、幸いなことに天気予報がはずれて東京でも美しい月を見ることができましたが、完全な満月ではないと気付かれた方も多かったと思います。
 この「中秋」という意味は秋の真ん中という意味ですが、旧暦では七月、八月、九月が秋で、その真ん中の8月15日が中秋になるので、そのときの月を中秋の名月と言う訳です。
 現在では、これを新暦に換算しているのですが、旧暦では1年が13ヶ月で構成されますから、旧暦の8月15日は新暦の9月になったり10月になったりしますし、旧暦の8月15日が丁度満月にならないときもあります。
 例えば、今月の満月は9月27日なので、昨晩は十三夜でした。来年の中秋の名月は9月15日で満月は14日、2009年は10月4日で満月は3日になります。
 このように月を愛でるのは、月には神秘的な力があると信じられて来たからです。
 そこで今日は月の神秘についてご紹介したいと思います。

 第一は月の誕生の神秘です。太陽系には8つの惑星がありますが、水星と金星以外には衛星が存在しています。
 ところが6つの惑星の衛星のうち、月だけが性質が違います。それは親の惑星の大きさとの比率が大きいということです。
 それぞれの惑星の直径を1として、最大の衛星の直径の比率を計算すると、月は0・27ですが、火星の場合は0・038、木星は0・036、土星は0・043、天王星は0・031、海王星は0・055です。
 すなわち、月は地球の10分の3程度ですが、他の衛星は100分の3から5と一桁小さいのです。
 どうして地球と月の関係だけ桁が違うかというと、誕生の経緯が違うからだと言われています。
 これには別の場所で誕生した星が地球の引力に捕えられたという捕獲説や、地球と同じように、微惑星という岩石が集まってできたという双子説などで説明されてきましたが、最近では、地球が誕生して1億年ほど経過した45億年前に、巨大な隕石が地球の表面をかすめ、そのとき表面から飛び散った物質と隕石が集まったのが月だというジャイアントインパクト説が有力になっています。
 つまり、他の衛星の惑星とは誕生の経緯が違うというわけです。

 第二は月に関する不老不死の秘密です。月は欠けても再び満ちてくるので、古来、世界各地で不老不死の物語が作られています。
 日本では「竹取り物語」が有名です。かぐや姫は月から来て、満月の日に月に帰るのですが、嘆き悲しむ御門に不老不死の薬を渡します。
 しかし、かぐや姫のいない世界で不老不死になっても仕方がないと、御門は日本で一番高い山の頂上で、その薬を燃やさせてしまいます。それ以来、その山には煙が耐えること無く「不二の山」になったという内容です。
 古代ギリシャにも不老不死の神話があります。地上でもっとも美しい男エンデュミオンは月の神セレネに愛されますが、人間であるため年老いていくエンデュミオンを悲しんだセレネは、彼を眠らせて不老不死にし、毎晩、眠ったままのエンデュミオンと交わり50人の娘を生むという物語ですが、ここにも月の不老長寿の性質が反映しています。

 多くの方のご関心があるのは満月のときに狼男が出現するというような、月の神秘的な力だと思います。
 英語に「lunatic」という言葉があります。月の形容詞は「lunar」で、「lunatic」は「狂気の」とか「精神異常の」という意味で、月には生命の活動に影響を及ぼす力があると信じられてきました。
 その一例がサンゴの産卵です。南西諸島では、水温が24度以上になる5月から9月の満月の4日後頃からサンゴが一斉に産卵します。これは大潮に乗って、遠くまで子孫を繁栄させるためと解釈されています。
 人間にも影響はあり、その代表が女性の月経周期で、月が新月から次の新月まで変化する日数の平均29・53日にほぼ一致していますし、平均妊娠期間は265・8日ですが、これは29・53日の丁度9倍です。
 また『国家の品格』で有名になった藤原正彦教授が、1992年に出産について新月や満月の関係を調べて発表しています。
 2400件以上の出産の資料からの統計ですが、新月や満月の1日前か3日後に集中しており、5日前や5日後には大きく減っているという結果になっています。

 アーノルド・リーバーというアメリカの医学博士が書いた『月の魔力』という本には、様々な興味深い例が紹介されています。
 狼男に関係する内容では、アメリカのフロリダ州とオハイオ州での殺人発生件数は新月と満月の数日後に際立って集中しているという資料が紹介されています。
 また、3人の気象学者が1962年にアメリカの科学雑誌『サイエンス』に発表した論文によると、北米では新月と満月の4日後に豪雨が多いという結果を発表し、それとは無関係にカナダの2人の学者が、夏の満月の夜には湿度や温度が上がり、正常な睡眠(レム睡眠)が妨げられ、精神障害を起こす人が多いと発表しています。
 そのような背景からロバート・ルイス・スティブンソンの『ジキル博士とハイド氏』(1886)が書かれるのですが、この作品にはモデルが居り、イングランドの職工チャールズ・ハイドです。
 彼は新月と満月のときに自分で考えも付かない犯罪を行って逮捕され、法廷で「lunacy」、すなわち間欠性精神病だと主張しますが、認められず、1854年に投獄されています。

 このような話は非科学的だと思われる方も多いと思いますが、満月の引力はアメリカ大陸を16センチメートル持ち上げるほどの力があると言われますから、人間にも影響を及ぼすことは十分にありえます。
 水中の生物は潮の干満に影響を受けるので、月の満ち欠けに関係した生活をしますが、考えてみれば、4億年以上前はあらゆる生物が海中に生活していましたから、それらから進化してきた人間も、その痕跡がないとは言えないと思います。
 今晩は丁度満月の夜ですから、それを眺めながら、生命の遥かな歴史を考えるのも一興かと思います。





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