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論文

 昨年あたりから「Web2・0」という言葉が流行し、インターネットが重要な役割を果たす情報社会が第一世代から第二世代に飛躍したといわれました。
 ところが、この世界の変化は急速で、最近では「Web3・0」という言葉も登場し、なかなか追いかけるのが大変です。
 その「Web3・0」を象徴する言葉としては、「CGM(Consumer Generated Media)」「CI(Collective Intelligence)」「ウィキノミクス」という概念、「ポッドキャスト」「ユーチューブ」「セカンドライフ」というサービス、「iPhone」のような機器まで様々なものが登場し、理解するだけでも一苦労です。
 そこで今日は、まったく別の方法で新しい情報社会を紹介したいと思います。そのキーワードは「融合」です。

 アメリカの未来学者アルビン・トフラーが1980年に『第三の波』というベストセラーを出版し、その中で第一の波である農業革命、第二の波である産業革命、そして第三の波である情報革命が到来し、そこでは「プロシューマー」が主役になると説明しました。
 これは生産者であるプロデューサーと消費者であるコンシューマーを融合させた言葉です。
 これまでプロデューサーになるには訓練とか専門の道具などが必要で、一般の人々は簡単には生産者になれなかったのですが、新しい情報技術によって垣根が取り払われるようになるということでした。
 それを象徴するのが手製の名刺だと思います。最近、色々な人から、コンピュータを使って自分でデザインし、プリンターで印刷した名刺をもらうことが多くなりました。
 この僕の名刺も一例です。これは3分でデザインし、30秒で10枚を印刷したものですが、コンピュータとソフトウェアが発達したので、だれでも簡単にできるようになりました。
 講演会のポスターでも、カレンダーでも、冊子でも同様に出来てしまい、トフラーの予言通りに「プロシューマー」が溢れてきました。

 ここからは僕の造語ですが、アマチュアとプロフェッショナルが融合して区別がない「アマフェッショナル」が活躍するのも「Web3・0」の特徴です。
 その代表が「ウィキペディア」というインターネットの内部に作られた百科事典です。重宝しておられる方も多いと思いますが、世界の何10万人という人が勝手に項目を決めて解説を書いた百科事典です。
 失礼ですが、普通の百科事典に「森本毅郎」という解説項目はありませんが、ウィキペディアには堂々と項目があります。
 これまで百科辞典は専門家が書くと決まっていましたが、素人が自分の関心のある項目を書く時代が始まったために、このような状況が発生したのです。
 それでは間違いが多くて信用できないと思われるかも知れませんが、イギリスの『ネイチャー』が40以上の科学関係の項目について、既存の百科事典とWikipediaの解説を調べたところ、どちらも同じ程度の間違いがあったそうですから、「三人よれば文殊の知恵」、すなわち「Collective Intelligence(集合知)」は馬鹿に出来ないということです。
 専門家、すなわちプロが制作した作品は「プログラム」と言われますが、素人、すなわちアマチュアが作った作品は「アマグラム」と言ったらどうかと提案しています。
 「セカンドライフ」というインターネットゲームが流行していますが、これはインターネット内部に創られた仮想世界に自分の分身を送り込み、現実世界と同様に会話や買物や観光をするという仕組ですが、その中には、世界中の人々が共同で映画を作るというプロジェクトもあり、これも「CI(集合知)」の実例です。

 次は個人の情報発信と新聞やテレビジョンなどマスメディアの情報の価値の境界がなくなる「Masonal(メイソナル)」です。
 ブログは世界に7000万以上あり、毎日12万ずつ増えているという大変な規模ですが、大半は絵日記のような自己満足のものです。
 しかし、それらの中でアルファブロガーといわれる人々のブログは書物の売上に影響したり、世論を左右したりするほどの力を持ち始めています。これがCGM、購読者が作るメディアです。

 次は働くこと(work)と遊ぶこと(recreation)が渾然一体とした「ワークリエーション」です。
 例えば「セカンドライフ」というゲームでは、そこで稼いだリンデンドルという通貨を現実世界のドルに変換することが可能ですが、それだけで生活している人が1000人以上いると推定されています。
 すなわち「セカンドライフ」で遊びながら生活費を稼ぐことができる社会が実現しているというわけです。

 アメリカのSF作家ニール・スティーヴンスンが1992年に書いた「スノウ・クラッシュ」というSF小説がありますが、これはポストサイバーパンク小説の代表といわれると同時に、「Web3・0」の原典といわれている作品です。
 主人公が「メタヴァース」といわれる情報空間の中を自由に飛び回ってスノウ・クラッシュといわれるウィルスと闘うという活劇です。
 一時代前にブルース・スターリングやウィリアム・ギブスンが創りだしたサイバーパンク時代のサイバースペースとどこが違うかというと、メタヴァースは現実空間と情報空間が表裏一体で往来自在だということで、まさに「セカンドライフ」そのものなのです。
 もちろん、それぞれの情報サービスを利用して新しい情報社会を理解されることも重要ですが、「プロシューマー」「アマフェッショナル」「アマグラム」「メイソナル」「ワークリエーション」などという新語で情報社会を輪切りにして理解することも面白いと思います。





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