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論文

 スイスのジュネーブには、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)、国際難民高等弁務官事務所(UNHCR)、赤十字国際委員会(ICRC)など、数多くの国際機関が集中していますが、その一つに世界知的所有権機関(WIPO)があります。
 ここは特許権や著作権などの知的財産権の保護や促進をするための国際連合の機関として1970年に設立されましたが、その前身である知的所有権保護合同国際事務局(BIRPI)は1892年に設立されており、歴史のある組織です。
 そのWIPOが今月10日に世界各国の特許当局に出願された特許の2006年の統計を発表しましたが、日本の特許庁へ出願された特許が40万8674件に対し、アメリカの特許商標庁に出願された特許は42万5967件で、アメリカへの出願のほうが多くなったということが話題になっています。
 これは1967年に日本がアメリカを追抜いて以来、39年ぶりの大逆転です。また、2003年には日本人が外国で取得した特許は17万1071件で世界一位でしたが、2004年には5万6592件に減り、ドイツ、アメリカに抜かれて3位になっています。知的財産立国を標榜する日本は大丈夫かと気になる事件です。

 2つの背景がありますが、第一はアメリカの特許制度の転換です。
 アメリカは世界で唯一の「先発明主義」を採用している国です。これは特許を申請していなくても、先に発明していたという事実を証明できれば、その個人や企業に権利があるという制度で、世界で評判が悪かったのです。
 そこでアメリカは現在、世界に倣って「先出願主義」、すなわち先に特許当局に出願した人に権利があるという制度への転換を議会で検討しています。その動きを見越して、世界各国がアメリカに出願し始めたということです。
 第二は日本の個人や企業が手当り次第に特許を出願してきたために、審査時間がかかりすぎるということで、確実に取得できそうなものに限るように特許庁が依頼し、企業が方針転換した影響です。
 しかし、いずれにしても資源小国である日本は知的財産が重要な資源ですから、今回の大逆転は重大な問題です。

 そこで今日は、世界に影響を与えた日本人の発明を振り返って、発明の重要さを考えてみたいと思います。
 20世紀の日本人の最大の発明は、ラーメンが一瞬で出来上がる「チキンラーメン」だという意見がありますが、この発明は1958年8月25日で、明後日が50年目に当ります。
 今年1月5日に96歳で亡くなられた日清食品の創業者・安藤百幅(ももふく)さんが、戦後の食糧難の解決を目指して大阪の池田市の自宅の裏庭で発明したのが発端ですが、現在ではインスタントラーメンは世界で年間860億食が消費され、一年に一人平均13食、日本だけでも54億食、一人平均42食を食べています。
 当然、世界各国で生産され、韓国、中国、フィリピン、マレーシア、タイなどのアジア諸国はもちろんですが、イギリス、フランス、スイス、ドイツ、ロシア、カナダ、ハンガリーなどでも生産され、収集家のコレクションを見ると、3250種類の袋が掲載されており、世界に影響を与えた発明だと実感できます。

 インスタントラーメンと並ぶインスタント食品の代表は「インスタントコーヒー」ですが、これも最初の発明は日本人によるものです。
 アメリカのシカゴ在住の日本人科学者加藤サトル博士がインスタント緑茶を研究している途中に、コーヒーを真空乾燥で製造する技術を発明したのが1899年のことです。
 そして1901年にニューヨーク州バッファローで開催されたパンアメリカン博覧会に「ソリュブル・コーヒー」という名前で出展しました。
 しかし、特許を取らなかったため、1906年になって、アメリカ人のワシントンが特許を取って発明者になっていますが、最初は日本人だったのです。
 ちなみに「缶コーヒー」も日本人の発明で、UCCの創業者上島忠雄さんが1969年に発明しています。当時の駅で売っていた飲物はビン入りしかなかったのですが、発車の前にビンを返さなければならず、飲み残したコーヒー牛乳を返したことが残念でしかたがなかった上島さんが翌年に発明したそうです。
 ついでに缶入りのお茶も日本の発明で、伊藤園が1981年に発売した「缶入りウーロン茶」が最初で、緑茶についても1985年に伊藤園から発売されています。

 それ以外にも、電気釜、乾電池、胃カメラ、カッターナイフ、オセロゲームなどがありますが、このような日常生活で便利な品物の発明だけではなく、本格的な発明もあります。
 1985年4月20日の発明の日に、日本の産業財産権制度100周年を記念して、特許庁が過去100年の日本の「十大発明家」を選定しました。
 列挙させていただきますと、自動織機の豊田佐吉、養殖真珠の御木本幸吉、高ジアスターゼの高峰譲吉、グルタミン酸ナトリウムの池田菊苗(きくなえ)、ビタミンB1の鈴木梅太郎、邦文タイプライターの杉本京太、KS鋼の本多光太郎、八木アンテナの八木秀次(ひでつぐ)、写真電送機の丹羽保次郎、MK鋼の三島徳七です。
 これらは日本に経済効果をもたらしたことはもちろんですが、尊敬も勝ち得ています。
 インスタントラーメンを食べ、缶コーヒーを飲みながら、発明のアイデアを考え、知的財産立国に貢献していただければと思います。





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