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論文

 相変わらずカヌーをするため日本全国に遊びに行っていますが、北海道に出掛けることが多く、先週も知床半島をカヌーで回り、テントの前をヒグマが悠々と通り過ぎて行くという経験をしてきました。
 北海道には他の地域と違う雰囲気があります。それはサロベツ原野、釧路湿原、知床半島のように、北海道にしか存在しない雄大な自然が楽しめるということもありますが、もうひとつは独特の地名です。
 例えば、知床という名前はアイヌ語の「シリエトク」に由来し、「土地の突出部」という意味ですし、サロベツ原野のサロベツはアイヌ語の「サルオペツ」、すなわち「芦原にある川」という意味で、土地の特徴をぴったり表しています。
 つまり北海道は先住民であるアイヌ民族の文化がまだまだ残されている土地だということで、そこに他にはない魅力を感じるのだと思います。
 そして今日8月9日は「世界の先住民の国際デー」に制定されている日なので、先住民の文化について考えてみたいと思います。

 かつて人々は小さな集団で生活していましたが、歴史とともに統合され国家といわれる単位になってきました。
 先住民は英語で「indigenous peoples」と呼ばれるように、国家になる以前から、その土地に生活していた人々を呼ぶ言葉です。
 かつては国家を統治する立場から、先住民を野蛮とか未開と看做した時代がありましたが、現在ではむしろ文化や伝統を尊敬し評価する時代になっています。
 そのような背景から、1982年8月9日に国連人権促進保護小委員会の先住民作業部会が最初の会合を開いたのを記念し、1994年に国連総会で8月9日を「世界の先住民の国際デー」とすることに決まったのです。
 そこで今日は、先住民の言葉を紹介しながら、いかに優れた文化を維持してきたかを紹介したいと思います。

 最初は日本の先住民であるアイヌ民族の言葉です。
 昨年、亡くなられましたが、差別されてきたアイヌ民族の復権に尽力され、参議院議員にもなられた萱野茂さんが紹介しておられる「ウウェペケレ」という昔話の一節です。
 「隣村の村長(むらおさ)の妻が死んだ理由は、プクサ(ギョウジャニンニク)を採るときに根こそぎ採ってプクサの神を殺してしまったからだ」という言葉です。
 最近は山菜採りが流行していますが、多くの人が見つけるとすべて採ってしまいます。そうすると翌年には新しく生えてこなくなってしまいます。アイヌの人々は必要な本数だけ採って、他は残すということを、このような昔話として伝えて来たというわけです。
 実は世界の天然の魚の漁獲量を調べると、1995年頃を頂点にして減りはじめています。これはまさに網で根こそぎ獲るような漁業をして来たからで、持続可能な漁業に変えて行く必要があるのですが、先住民は実践していたということです。

 次にご紹介するのはネイティブアメリカンといわれる北米大陸の先住民の一つスクワミシュ・ドワミシュ族の長であるチーフ・シアトルの「どうすれば空気を売ったり買ったりできるのか?」という言葉です。
 アメリカ政府が土地を売れと言ってきたときに「大地の温もりは売ったり買ったりできるのか?この甘い空気も湧き上がる泉も、もともと私たちのものでないとしたら、どうやってそれを買うというのか?」という言葉が続きます。
 日本での入会権、西欧でのコモンズという考え方で森林や原野が管理されていた時代には、森林は上手く維持されていましたが、私有制や囲い込みによって次第に荒廃してきました。
 現在の自然環境の破壊に対処して行くためには、自然は人間全体に貸し与えられた存在であり、売買の対象とすることは間違っているという考えが必要だということを明確に示していると思います。

 アマゾンの先住民グレナック族には「宇宙のすべては呼吸している」という言葉と「人間は鳥のように静かに飛び去ることができる」という言葉があります。
 人間は地上での命を失っても、宇宙へ戻って、その一部になるのであり、地球には一時的に滞在して通り過ぎるだけである。したがって、そこで記念碑を残してゆこうとする人は自信がないからであると言っています。
 西欧の人々のように何かを成すために人間は存在していると考える必要はなく、何も成さなくてもいいのではないかとも説明しています。
 これは仏教の輪廻転生と同じ考えですし、最近ではイギリスの物理学者ジム・ラブロックの「ガイア仮説」とも通ずる考えです。
 ラブロックは、生命は動物と植物に宿るだけではなく、例えば、火山が爆発するのは元素を循環させる地球の活動であり、それらが一体となって地球という生命体を形成していると説明しています。
 現在の環境問題は人間が社会基盤など様々な記念碑を作るために自然を開発していることに原因の一つがあると考えると、地球に足跡を残さないという考えは、これからの生活様式を考えるのに参考になると思います。

 今日は3つの先住民の言葉を紹介しただけですが、彼らは大規模に自然を開発したり改造したりする技術をもたず、自然と一体となって生活してきたために、環境を深く理解した思想を身につけて来たのだと思います。
 人類が直面している環境問題にどのように対処して行くかというとき、このような先住民の考えは十分に参考になり、「世界の先住民の国際デー」を契機に、先住民の知恵を見直してみることは重要だと思います。





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