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論文

 6月末に三重県に行き、土地の古老にお目かかったとき、自分の子供のとき以来、久しぶりに水争いを経験したという話を伺いました。
 田に引く水が不足して、川の水を巡る争いが起こったということです。
 もちろん、江戸時代のような殴り合いになるということではありませんが、空梅雨気味のための現象です。
 また、7月に香川県に行ったときは、台風の影響で大雨が降って何とか解決したが、それまでは水不足で田植えができないのではないかと心配したということでした。
 これだけ技術が進歩した時代になっても、人間社会は自然現象に左右されている訳ですが、とりわけ水については世界各地で深刻な事態が発生しています。
 そのような背景で、日本では8月1日を「水の日」、8月7日までの1週間を「水の週間」としています。これは8月がもっとも水の使用量が多い月だからです。
 そこで今日は世界の水について考えてみたいと思います。

 現在、世界の人口は65億人を突破していますが、その20%近い12億人から13億人は、水道水など安心して飲める水が手に入らないと言われています。
 一口に12億人とか13億人といいますが、中国の人口に匹敵しますから、大変な数です。
 そのため、世界では水不足で10秒に1人の割合で人が死んでいます。
 それでは、そのような人たちは今後の技術開発や基盤整備によって減って行くのかというとまったく逆で、スウェーデンのストックホルム環境研究所が1997年に発表した資料によると、2025年には世界の人口は80億人になり、その60%に相当する50億人が水不足になり、2050年には90億人になる世界の人口のうち80%に相当する70億人が水不足になる、すなわち5人に4人が満足に水を手に入れられないという、信じられないような予測を発表しています。
 この数字が正確かどうかは別にして、世界全体が水不足になることは確実です。

 その理由は農業に大量の水を使うということです。
 世界の農地の約20%は灌漑によって維持されていますが、そこで世界の食糧の40%を生産しています。この灌漑農業が、人間が利用できる水の70%を使っており、これが様々な問題を発生させているのです。

 その問題を象徴するのが、カザフスタンとウズベキスタンに股がるアラル海です。
 この湖は理科年表などによると、琵琶湖の100倍に匹敵する世界4位の面積をもつということになっています。
 ところが最新の衛星写真によると、面積は3分の1ほどになっており、かつての湖水であった場所は底の地面が露出しています。そして水面は、この40年間で20mも下がり、湖に溜まっていた水は7分の1になってしまいました。
 理由は明確です。この湖にはアムダリア、シルダリアという、それぞれ延長が2000km以上もある2本の大河が流れ込み、どこにも流れ出ない構造なので、従来のままであれば、蒸発する量と流れ込む量が均衡して面積、水位とも安定しているはずでした。
 ところが、1950年代から、ソビエト政府がアムダリアの途中にあるカラクム砂漠に650kmの運河を掘削し、そこにアムダリアの水を流し込んで、砂漠で綿花の栽培を始めたのです。
 綿というのは大量の水を必要とする作物のため、ついに1980年代になって、アラル海に流れ込む水はゼロになってしまいました。
 この琵琶湖の100倍の面積の湖では、最盛期には6万人の人たちが漁業を行っていたのですが、1982年に漁業は廃止になりました。
 それだけではなく、地下水位が低下したので、周辺の乾燥地帯のオアシスが消滅し、野生動物もいなくなりましたし、湖の底に沈殿していた農薬などが風で散乱し、様々な病気が蔓延する場所になってしまいました。
 たった30年間で何億年も存在していた湖を消滅させてしまったことになります。

 アラル海だけではなく、このような例はたくさんあります。アフリカの中央部分に琵琶湖の40倍以上の面積で世界14位であったチャド湖という湖があります。
 ここも流れ込む川の途中にダムを造り、そこに貯めた水を農業に使ったために、面積は10分の1程度になっています。
 これだけではなく、オーストラリア最大のエーア湖、カンボジアにあるトレンサップ湖、中国の長江に接続している洞庭湖など、世界の巨大な湖が急速に面積を縮めています。

 灌漑農業は大河も消滅させつつあります。中国にある延長が世界6位の黄河では年に何回かは海まで水が流れない「断流」という現象が発生するということで有名です。
 中国人が日本は島国で小さな国だと思っていたが、大河があるではないかと言ったのが瀬戸内海というわけですから、黄河は日本の川とは桁違いで、河口部分では川幅が30kmもあります。その川の水が枯渇してしまう訳ですから大変なことです。
 それ以外にも、海まで水が流れなくなった川は、アメリカのコロラド川をはじめとして世界に何本もありますが、すべて上流での農業用の取水が原因です。

 日本はほとんどの資源を海外からの輸入に頼っていますが、唯一、自給できている資源は淡水だけです。生物が生きていくうえで、重要な資源は第一が水、第二が食べ物ですから、この「水の週間」を契機に水を守りながら食糧自給率を上げていく政策を真剣に検討する必要があると思います。





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