TOPページへ論文ページへ
論文

 日本で一番高い建物というと、横浜に1993年に竣工した「横浜ランドマークタワー」で、70階建て296mですが、それでは世界で一番高い建物はというと、現在は台湾の台北に2004年に完成した「台北国際金融大楼」、通称「台北101」で、101階建て508mですから、「横浜ランドマークタワー」の1・7倍の高さです。
 ところが、この「台北101」をはるかに凌ぐ、とんでもない高層建物が現在工事中なのです。これはアラブ首長国連邦(UAE)の第二の都市ドバイに建設されている「ブルジュ・ドバイ」、英語風に言えば「ドバイタワー」です。
 現在は高さが秘密で公開されていないのですが、162階で700m程度という説から、300階で1000mを超えるという説もあり、いずれにしても「横浜ランドマークタワー」と比べると大人と子供というほどの大差です。
 ちなみに設計はアメリカのスキドモア・オーイングズ・アンド・メリル、建設は韓国のサムスン建設が中心となった共同事業体、内装はジョルジオ・アルマーニという国際色豊かな構成で、来年には完成予定です。
 アメリカでは、9・11事件で消滅したワールド・トレードセンター・ビルの跡地に、アメリカの独立した年を記念した1776フィート(約541M)の「フリーダムタワー」を建設し、「台北101」を追越す世界一を、シカゴでは、さらにそれを追抜こうと約610mの「シカゴ・スパイア」を建設中でしたが、すべて「ドバイタワー」に追越されて、短期といえども世界一にはなれないようです。
 ところがさらに現在、クウェートで1000mを超える建物が計画されており、「ドバイタワー」の世界一の座も数年といわれています。

 なぜ、このような高層建築を目指すかについては諸説がありますが、簡単に言えば力、すなわち経済力と技術力の誇示だと思います。
 中世にはキリスト教会の大聖堂が高さを競争し、12世紀にはフランスのシャルトル大聖堂が34mまで到達し、13世紀になるとボーヴェ大聖堂が48m、14世紀になるとミラノ大聖堂が109mと一気に記録を塗り替え、信仰力を誇示するという状態でした。
 しかし、現在は信仰力よりは経済力の時代ですから、国や企業が経済力を誇示するために、高層建築を建設するわけです。

 それを示すために、以下のような統計を作ってみました。
 1975年までの世界の高層建築の順位を調べてみると、一位がシカゴにあるシアーズタワー(442m)、二位が戦前にニューヨークに建てられたエンパイヤステートビル(381m)以下、10位まですべてがアメリカに存在していました。
 ところがそれ以後、2000年までに建てられた建物については、1位が1998年にマレーシアのクアラルンプールに完成した2本の塔からなる「ペトロナスタワー」(452m)、2位が同じく1998年に中国の上海に完成した「上海金茂大厦(シャンハイ・ジン・マオ・タワー)」(421m)、3位が中国の広州に1997年に建設された「広州中信広場(CITICプラザ)」(391m)となっており、10位までのうち8本がアジア、残り2本も中近東にあります。
 ここまでだけでも経済力を誇示するためという目的が伺えますが、2000年以後に実現した建物と建設中の建物を調べると、さらに明確になります。
 1位は先程ご紹介した「ドバイタワー」で、2位の「フリーダムタワー」を300m以上も引き離す建物で、10位までのうち、6本がアジア、2本が中近東、残りは1本がアメリカ、1本がオーストラリアで、経済成長の勢いをそのまま反映しています。

 これは超高層建築を横にした長大橋についても、まったく同じ傾向です。
 長大橋については様々な技術がありますが、もっとも柱と柱の間隔が長くなる吊橋について調べてみます。
 1997年まではニューヨークに1964年に架けられた「ベラザノナローズ橋」の中央支柱間距離が1298mで1位、2位はサンフランシスコ湾の有名な「ゴールデンゲート橋」で1280m、そして10位までのうち5本がアメリカ、3本がヨーロッパ、1本がトルコのイスタンブールのボスポラス海峡に架けられた第一ボスポラス橋、残りがベネスエラのオリノコ川の河口に架けられたアンゴスチュラ橋でした。
 しかし1975年から2000年の間に架けられた吊橋では、日本が世界一の明石海峡大橋(1998m)を筆頭に10位以内に4本を占め、バブル経済を反映し、残りはヨーロッパが4本、そして中国が2本と台頭してきました。
 そして2000年以後になると、1位から5位までを中国が独占し、ヨーロッパに2本、アメリカに1本、日本に1本となります。
 中近東には大河がないので登場しませんが、まさに世界の経済力の移動を象徴していると思います。
 しかし、旧約聖書の創世記に記されているバベルの塔の物語が警告しているように、技術力と経済力を誇示して、ひたすら高みを目指すことが人間社会にとって、どのような意味があるかも考えてみる必要があると思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.