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論文

 最近、経済分野でユニコーンという言葉がよく登場します。
 ユニコーンというのは実際には存在しない伝説の動物「一角獣」のことですが、馬のような外形で、頭の中央から1本の長い角が生えているので、ラテン語の一本の角(ウニコルヌース)から転じて英語でユニコーンと言われています。
 この角にはヘビの毒で汚された水を清める力があるという伝説があり、それを手に入れれば大金持ちになれるということで、スタートアップして間も無い未上場の企業で、投資して大化けすれば大金持ちになれそうなベンチャー企業をユニコーン企業というようになりました。
 極めて最近の言葉で、アメリカのベンチャー企業投資家アイリーン・リーが2013年に作った言葉です。
 その定義は創業して10年以内、企業の時価評価額10億ドル(1000億円)以上、未上場企業、そして業務は技術を応用する分野という4条件を備えた企業で、投資をして上手く成長してくれれば、貴重なユニコーンの角を得るように投資家は大金持ちになれるというわけです。
 最近では、ユニコーン企業よりも上位で、評価額が100億ドル(1兆円)以上はデカ(10倍)コーン企業、1000億ドル(10兆円)以上はヘクト(100倍)コーン企業という名前も登場しています。

 「CBインサイツ」というアメリカの調査会社がユニコーン企業の一覧を発表していますが、現在、約290社が存在します。
 1位が中国の「今日頭条(トーチャオ)」というニュースを編集して配信するニュースアプリ企業で750億ドル(7兆5000億円)。
 2位がお馴染みのアメリカの相乗りサービス「ウーバー」で720億ドル(7兆2000億円)。(*「ウーバー」は2019年5月10日に上場)
 3位が滴滴出行(ディディチューシン)というウーバーの中国版で560億ドル(5兆6000億円)。
 4位が民泊紹介サービスのアメリカの「エアビーアンドビー」で293億ドル(2兆9300億円)。
 5位が自動車会社テスラの創業者であるイーロン・マスクが創立した宇宙ロケット打ち上げの「スペースX」で215億ドル(2兆1500億円)。
 いずれも100億ドル以上のデカコーン企業です。   

 上位5社だけでもアメリカと中国ですが、評価額100億ドル以上のデカコーン企業は18社あり、アメリカが11社、中国が5社、シンガポールが1社、インドが1社となっています。
 さらに上位100社までを国別で調べてみると、アメリカが46社、中国が32社、ヨーロッパが10社、中国以外のアジアが9社、その他が3社という分布です。
 日本はどうなっているのだと心配されると思いますが、心配は的中しており、102位にソフトウェア企業の「プリファード・ネットワークス」が登場しますが、この1社のみで、それ以外は出てきません。

 その理由を解明するヒントとなる意見を、今年のノーベル医学・生理学賞を受賞された本庶佑(ほんじょたすく)京都大学特別教授が新聞のインタビューで披露しておられます。
 本庶教授は研究開発のイノベーションについて意見を述べておられるのですが、ベンチャー企業についても当てはまると思います。
 新聞記者が「政府がイノベーションを起こそうと躍起ですが」と質問したところ、「政府が旗を振ってするものではない。政府がこれをしなさいあれをしなさい、というのはまったく馬鹿げている。役人が考える程度のことは誰だって考えている」と厳しい意見を言っておられるのです。
 ところが、今年6月に政府が「未来投資戦略2018」を発表し、2023年までにユニコーン企業や時価総額10億円以上の上場企業を20社創出するという構想を打ち上げています。
 まさに本庶教授が「まったく馬鹿げている」と批判しておられることをやろうとしているのです。

 私も「まったく馬鹿げている」ことをした経験があり、本庶先生のご意見には納得します。
 まだ現役の大学教授であった20年ほど前、今日の話題に関係する2つの政府の委員会の委員をしたことがあります。
 一つは独創的な研究に研究費を配分する委員会で、私を例外として、様々な分野の優秀な学者が委員として参加していました。
 委員長は最近、亡くなられたノーベル賞候補にもなられたことのある西澤潤一先生でした。
 しばらく議論が続いた後で、西澤委員長が「色々と意見を述べておられるが、本当に独創的な研究テーマは、あなた方のような既存の分野を研究している人間には想像できない内容なのだよ」と言われ、全員、静まり返ったことがありました。
 本庶教授が「目的が決まった研究費は研究者を型にはめてしまうため、とんでもない発想は生み出せない」言っておられることと同様です。

 やはり20年ほど前に、政府のベンチャー企業への補助金の配分を審査したこともありますが、そのとき実感したことは、大学を辞めて自分で企業を起こすような能力や度胸のない人間に、成功するか失敗するかに人生を賭けている人間の発想は理解できないということでした。
 アメリカや中国は投資家が自分で判断して、自分の資金を投入するから真剣です。
 アメリカに渡ってベンチャーキャピタリストをしている友人がいますが、彼に話を聞くと、投資するかどうかを判断するためには、その相手と何日も議論して判断するということでした。
 日本の役所の研究費や補助金を配分する人間は、せいぜい10分ほど説明を受けて判断し、数千円の謝金をもらって終わりで、結果には責任を取らない立場です。
 やはり、親方日の丸の風潮を払拭しないと、日本は研究でもユニコーン企業でも世界に遅れをとることになると思います。





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