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論文

 先週終了したハイリゲンダムのサミットの中心議題は環境問題でしたが、とりわけ地球温暖化への対策が議論されました。
 この地球温暖化が進むと様々な影響が出てきます。海水が膨張して海面が上昇し、そのために低地が水没するということ、これまで熱帯地域でしか感染の心配のなかった伝染病が温帯地域でも流行するようになること、農業生産が減少することなどが心配されていますが、日本ではそれほど関心がないものの、世界全体では大きな問題になっているのが、砂漠の面積が増加していくことです。

 3日後の日曜日6月17日は、その問題に対処するために国連が定めた「砂漠化と闘う世界デー(World day to Combat Desertification)です。そこで今日は砂漠について環境問題の視点から考えてみたいと思います。

 どのような契機で6月17日が砂漠化と闘う世界デーになったのかについては遡ると長い話になるのですが、1977年に国連環境計画(UNEP)の主催する「国連砂漠化防止会議」が開かれ、そこで世界で砂漠が急速に広がっているという問題が提起されるとともに、「砂漠化防止行動計画(PACD)」が採択されて、各国が行うべき活動が勧告されました。
 しかし、砂漠は広がる一方であったため、92年6月にリオデジャネイロで開かれた「地球サミット」で「砂漠化対処条約」を採択することを国連総会に要請することが決定されました。
 それを受けて1994年6月17日にパリのユネスコ本部で条約が採択されたわけですが、その日を世界デーにしたという、17年越しの長い話です。

 日本人は砂漠というと、見渡す限り砂の海で一本の草木もない光景を想像しますが、国連環境計画では乾燥指数という数値によって定義しています。
 乾燥指数というのは地域の一年の平均雨量と土地から蒸発していく水分との比率を示すもので、0・2以下、すなわち蒸発していく量の5分の1以下しか雨が降らない地域を「乾燥地域」、0・5以下を「半乾燥地域」、0・65以下を「乾燥半湿潤地域」と名前を付け、これを砂漠化の対象地域としています。
 そして、その土地で土壌の流出が発生していたり、自然の植生が減少していたり、土地の塩分が増加していたりする地域を土地が劣化していると定義し、そこを砂漠化対処条約の対象にしているというわけです。
 要約すれば、乾燥した土地で人間が利用しにくくなっていく地域の増大を防ごうというのが、世界デーの目指すところです。

 地球には149億ヘクタールの陸地がありますが、そのうちほぼ4分の1にあたる36億ヘクタールが砂漠化しています。このままで安定していればいいのですが、問題は砂漠が急速に拡大していることで、現在、毎年6万平方キロメートルずつ増加しています。
 これは四国と九州を合計した面積ですし、1秒に換算すると1900平方メートルですから、テニスコートの白線で囲まれた部分の7面分が砂漠になっているということになります。
 関心のある方は「砂漠化リアルタイムカウンター」というウェブサイトがありますので、ご覧頂くと、下4桁が目にも留まらぬ早さで増えている状態をご覧いただけます。

 問題は砂漠が急速に増えていく原因は何かということです。
 地球温暖化によって気象条件が変わり、乾燥地帯の気温が上昇して水分が蒸発する量が増えたり、雨の降る量が減ったりするという自然の要因もありますが、重要な要因は人間の活動によるもので、砂漠化の原因の約半分が過剰な放牧によって家畜が草を食べてしまうため、5分の1が不適切な灌漑による塩害の増加、もう5分の1が樹木の伐採のしすぎということになっています。
 それでは何故、国際的に協力して砂漠化を防ごうとしているかということですが、どなたも想像されるように、農業生産への影響が大きいからです。
 現在、世界には約15億ヘクタールの農地がありますが、そのうち17%に相当する2億5000万ヘクタールが砂漠化に直面しています。
 また牧草地は約35億ヘクタールありますが、その90%以上に相当する33億ヘクタールも砂漠化の影響を受けています。
 しかも、この砂漠化が進んでいるのはアフリカ北部と中国西部に集中しているのですが、世界で食糧不足で困っている人口の27%はアフリカ、21%は中国に集中していますから、砂漠化の影響は甚大です。

 そのため、各地で植林が熱心に進められていますが、そうして砂漠を減らしていけばいいかというと、地球環境は微妙な均衡の上に成り立っていますので、別の問題も発生します。
 例えば、ヨーロッパ大陸の中央部が高緯度にもかかわらず寒冷にならないのは、サハラ砂漠で暖められた空気が南から吹き込んでくるためで、もし6000年前のようにサハラ砂漠が森林地帯に戻ると、ヨーロッパ大陸は寒冷化する可能性があるといわれています。
 また、日本に春から初夏にかけて中国大陸から到来する黄砂はタクラマカン砂漠、ゴビ砂漠、黄土高原が発生地帯ですが、これらの砂塵はアルカリ性の炭酸カルシウムが主成分で、そのために酸性雨が中和されているという説もあります。
 さらに黄砂にはマグネシウムなどの無機栄養分が含まれているので、それが海に降下すると植物プランクトンを育成し、結果として魚が増えるという意見もあります。
 このように地球は微妙かつ複雑な関係で成り立っていますので、人間が自分たちのために短期の利用をしすぎることは色々な問題を引き起こすということを理解することが重要だと思います。





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