TOPページへ論文ページへ
論文

 最近、サカナについての話題が新聞やテレビジョンで取り上げられることが多くなっています。
 例えば、良い話題ですと、東京湾に注ぐ多摩川に遡上するアユの量が年毎に増えているということで、昨年は河口にある川崎漁業協同組合の調べで約127万匹が上がったそうですが、今年は4月12日までで、すでに60万匹以上が遡上し、全体では昨年を上回ると予想されています。
 原因は川の途中にある取水堰の一部を取り除き、小さなアユでも上流に楽に上がれるようにしたこともありますが、やはり、流域の下水道整備が進み、川の水がきれいになってきたことだと思います。
 もうひとつ良い話題は、北海道で獲れるニシンの量が増えて来たということです。北海道のニシンは、すでに15世紀中頃から、本州の漁師が出掛けて穫っていまし
 たが、18世紀後半から急速に増大し、幕末には年間15〜20万トンの水揚げがありました。
 そのため北海道の日本海沿岸は「江差の春は江戸にもない」と言われたほど繁栄し、各地に豪華なニシン御殿が次々と建設されるほどでした。
 そして明治30(1897)年に東京ドーム3杯分にもなる97万トンで最高となりましたが、以後、急速に減少し、最近では数トンと最盛期の10万分の1以下に激減していました。
 二度とニシンが戻ってくることはないかと思われていましたが、10年前の1997年頃から回復の兆しが見え始め、毎年200トン以上になり、2004年には1200トンとなっています。

 良い話題だけではなく、悪い話題もいくつもあります。以前にも紹介しましたが、大衆魚であるイワシの漁獲が激減していることです。
 日本列島周辺はマイワシの世界有数の産地ですが、日本の漁獲高は1980年代後半には毎年500万トン以上でしたが、現在では数万トンと100分の1になっています。
 原因は完全には解明されていませんが、日本列島周辺の水温が上がって、イワシが別の地域に移動したからではないかと推定されています。
 高級魚も問題で、「大間のマグロ」で有名になったクロマグロの絶滅が心配されており、水産庁が日本近海のクロマグロを規制する具体策の検討をはじめています。
 以上の4種類のサカナについては、減少した理由が様々にありますが、一言で言えば獲りすぎたということだと思います。

 しかし、このような食料となるサカナではなく、絶滅が心配されているサカナがあります。日本に棲息する最も小さい淡水魚メダカです。
 1999年2月に環境庁がレッドリストを発表したときに、メダカをVUと略される絶滅危惧U種に指定し、話題になりました。
 これは野生のメダカについてですが、日本全域からメダカが消滅するというよりは、各地に遺伝的に特徴のある様々なメダカが棲息しているのですが、その一部に絶滅の心配があるということです。
 原因は何かということですが、まず挙げられるのが田畑で使われる大量の農薬のために水質が悪化していること、さらにコンクリートの用水路が増えて小川が減少したことが考えられます。
 メダカの学名は「Oryzias latipes」ですが、これはイネの回りにいるヒレの広い魚」という意味で、小川から水田に入ってきて産卵したりしますが、その小川と水田の間の通路がなくなり、繁殖場所が減ってきたという影響もあるようです。

 また、カダヤシ(タップミノー)といわれる北米原産の小魚が台湾経由で日本に入り、急速に増加して、メダカや小型の淡水魚が駆逐されていることなどがあげられます。
 このカダヤシは昨年2月に特定外来生物に指定され、国内での飼育や移動、海外からの輸入が禁止されています。
 ところが、絶滅危惧種に指定されたために、各地でビオトープにメダカを放流するような活動が活発になりました。
 しかし、国内のメダカは遺伝子特性により約10種類に分類されますが、それに関係なく、他地域のメダカを放流したり、観賞用に品種改良されたヒメダカやシロメダカを放流したり、極端な場合は、一見すると同じように見えるため、メダカの天敵である外来種のカダヤシを放流した場合もあるそうです。
 これは絶滅危惧種に指定された本来の目的が、それぞれの地域に分布する遺伝子の違うメダカを保護することなので、逆効果なのです。

 これと同じ問題が植物の分野でも発生しています。
 日本ではサクラ並木を作ったり、サクラの公園を作ることが熱心におこなわれていますが、そのサクラの大半がソメイヨシノという一種類で、しかも、サクラ以外は植樹しませんから生態系の多様性を阻害しているのです。
 生物の世界では、遺伝子多様性を維持することが大変に重要なことであり、日本の唱歌にも歌われて馴染みのある「メダカ」と「サクラ」を通して、このことを理解していただければと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.