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論文

 秋の終わり頃から日本各地に様々な渡り鳥が飛んで来ますが、この3月中頃から別の場所に飛び立ちはじめています。
 先月もオホーツク地域にある濤沸湖という湖の横を通りましたが、1000羽以上の白鳥が泳いでおり、4月になって飛び立つための準備をしていました。
 今日は、このような渡り鳥について色々と御紹介したいと思います。

 渡り鳥はどの程度の規模かということですが、日本では現在665種の鳥を見ることができますが、そのうち約75%が渡り鳥だそうです。
 環境省の調査によると、日本に渡って来る鳥は1970年頃には100万羽程でしたが、昨年1月の調査では200万羽を突破して206万羽になっています。
 このうち、圧倒的に多いのがカモの種類で96%になります。確かに僕の家のすぐ横にある、それほどきれいでもない都心の掘割にも11月頃からカモが10羽ほど来ていますから、カモは多いのだと思います。それ以外は白鳥が3%、ガンの種類が1%です。

 この30数年の間に日本で渡り鳥が2倍くらいに増えているのは、もちろん測定精度の問題もあるので一概にいえませんが、やはり自然環境保護が進み、また、国民の自然への関心が高まっているからだと思います。
 したがって、日本よりも自然環境が豊かな地域には大量の渡り鳥がいることになります。例えば、アフリカ大陸とヨーロッパ大陸を往復する渡り鳥は15億羽、アフリカ大陸とシベリアの間も数10億羽と推計されていますから、日本の1000倍以上です。
 さらに自然環境が豊かであった200年前、絶滅させられたアメリカ大陸のリョコウバトは一日で22億3000万羽が飛んで行ったという観察記録もあります。

 キョクアジサシは繁殖地である北極圏と越冬地である南極圏の間を往復して年間3万2000km、ハシボソミズナギドリもオーストラリアから北大西洋を一周して戻って来て3万2000kmを移動します。地球1周が4万kmですから、その80%を飛ぶことになります。
 当然、大量のエネルギーを使いますから、出発前にはエサを十分に摂って脂肪を蓄えて出発しますが、目的地に着いたときにはやせ細ることにもなります。
 さらに途中では嵐に会い、敵に教われることもあります。なぜそのような苦労をするのかということですが、3つほど理由があります。
 第一はエサを求める移動です。シベリアでは冬になると湖は凍ってしまって水草を食べることができないし、鳥の食べる昆虫も居なくなってしまうので、凍らない湖のある暖かい地域に移動するというわけです。

 第二は繁殖のために十分なエサがあると同時に安全な場所に移動するということです。
 2005年の第78回アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したフランス映画「皇帝ペンギン」でご覧になった方も多いと思いますが、普段は南極大陸周辺の海上で群れを作って生活している皇帝ペンギンは南極の秋になる3月から4月にかけて上陸して海岸から場所によっては200kmもある繁殖地に到着し、吹きさらしの氷原で卵を産んで孵化させます。
 その間、オスは4ヶ月間も零下数10度になる場所で絶食してジッとしています。
 正確な理由は分からないようですが、海には天敵のシャチやアザラシが居るから安全な場所で繁殖するのではないかと推測されています。

 第三は、これまでの二つの理由と関係するのですが、天候の変化に対抗する方法として渡りをするということです。天候の変化に対応する方法としては、北米大陸に棲息するドングリキツツキのように、木に穴を掘って大量のドングリを蓄えて冬を乗り切ったり、やはり北米大陸にいるプーアウィルという鳥のように冬眠する鳥も居ますが、多数の鳥が快適な環境に移動するために渡りをするということです。

 渡り鳥についてよくある疑問は、飛び立つ時はどのようにして決めるかということ、そして数千kmも離れた目的地にどのようにして到着するかということです。
 出発する時期は鳥の中に組込まれた体内時計が作動するという説と、一日に受ける光の量に影響されてホルモン分泌が変化して、渡りをする生理状態になるという説があります。
 実際、人工的に光を当てて自然状態よりも光に当たる時間を増やした鳥は通常より2ヶ月早く飛び立ったという実験もあります。
 目的地はどのようにして決めるかについては、星座で判断する、地磁気を感知する、太陽の位置を参考にするなどが挙げられていますが、これもプラネタリウムの中に置かれた鳥が一斉にある星座に向かって飛び立ったという実験があります。

 ところで自然環境の中には、鳥よりもはるかに大量に渡りをしている生物が存在し ます。人間です。
 日本を拠点とする渡り鳥は200万羽程度ということを最初に紹介しましたが、日本人は現在年間1700万人前後、海外と日本を往復していますから、鳥の8倍近い渡り人間がいることになります。距離も多くの渡り鳥の4000kmから6000kmと比べると、ヨーロッパを往復するだけで2万km以上ですから、キョクアジサシには適いませんが、ほとんどの渡り鳥以上です。
 このような現象を考古学者が興味深い解説をしています。「人間は紀元前1万年頃に農業を始め定住するようになったが、これは移動によって可能になっていた選択肢を狭めたことであり、長期や短期の気候変動にいっそう脆弱になった」(ブライアン・フェイガン『古代文明と気候大変動』)というわけです。
 渡り鳥を眺めながら、これからの生活様式を再考することも意味があると思います。





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