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論文

 昨年10月9日、「グーグル」が「ユーチューブ」という会社を16億5000万ドル(約2000億円)で買収すると発表し、11月13日に買収手続きが完了し話題になりました。
 しかし、一部の熱狂的なファンを除いて、日本の多くのみなさんには「ユーチューブ」というのは一体何だという印象ではなかったかと思います。
 そこで今日は放送というビジネスを根底から覆すかもしれない、この「ユーチューブ」について、ご紹介させていただこうと思います。

 「YouTube」というのは、簡単に説明すれば、だれでも無料で動画を投稿し、だれでも、それらの動画を無料で閲覧できるというサービスです。
 以前「ポッドキャスト」というサービスを簡単にご紹介したことがあります。これは音声の番組をだれもが特定のサイトに投稿し、だれもがそこから聴取できるもので、実際、この「森本毅郎スタンバイ」も「ポッドキャスト」でお聞きいただくことができます。
 それを音声から画像に拡大したサービスが、一般名詞で「ボッドキャスト」と言われ、いくつか登場しはじめました。例えば、ソニーが6500万ドル(約80億円)で買収した「グルーパー」や、グーグル自体も「グーグルビデオ」を運営していましたが、一気に躍進して来たのが「ユーチューブ」というわけです。

 投稿する人は事前に登録する必要がありますが、閲覧するだけという人は「www.youtube.com」と入力すれば、直ちに画面が現れ、実に様々な動画を楽しむことが出来ます。
 トップページにある分類を見ると、「芸術」「自動車」「喜劇」「音楽」「ニュース」「科学技術」「スポーツ」など12分野に分かれており、例えば、「科学技術」を開くと「本田技研工業のロボット・アシモのデモンストレーション」、「水を入れた風船の爆発する高速映像」「世界最小の双発飛行機」などのビデオを見ることが出来るし、「スポーツ」の分野では「シャラポアが全豪テニス選手権で負けたときの様子」「森本貴幸のセリエAでの初ゴール場面」などを見ることが出来ます。ちなみに森本のゴール場面は、すでに47000ほどのアクセスがあります。
 現在のところ、日本人が投稿している映像以外は英語ですが、画像ですから大体の内容は分かると思います。

 投稿は10分以内の映像コンテンツに制約されていますが、現在、1日に3万5000本の投稿があり、この分野で40%以上のシェアを誇っています。
 そのビジネスが、またIT社会を象徴する勢いで、創業者のスティーブ・チェンとチャド・ハーリーが会社を設立したのが2005年2月、サービスを開始したのが12月、そして2006年11月にグーグルによる買収と、その間わずか21ヶ月です。
 そして利用者(ユニークユーザー)も2006年1月には490万人から半年で1960万人と3倍に、閲覧回数(ページビュー)は1億1760万回から7億2400万回と5倍以上に、視聴時間は17分から28分と1・6倍に増えています。

 なぜ、いくつかある動画閲覧システムの中で、「ユーチューブ」が一気に躍進したのかについては、いくつかの理由があります。
 第一は登録したユーザーには1人当たり500メガバイトという膨大な容量を無料で提供してくれる、第二は各映像には「タグ」と呼ばれる検索用のキーワードが付いているので、関心のある映像を簡単に探すことが出来る、第三に気に入った映像があれば友達に連絡し、仲間で趣味を共有することができる、第四に広告で運営されているにも関わらず、多くのサイトのように最初に「プリロールCM」といわれる広告を見なければ本編に到達できないという世知辛さがない、第五に登録した利用者は内容を採点することができ、それを参考にして選ぶということができることなどが挙げられます。

 これはどのような意味があるかということを考えてみたいと思います。世界には何チャンネルのテレビジョンが必要かという問題があります。
 一方の究極の答えは見ている人の数だけというものです。個人の好みに合わせた番組を提供するチャンネルを一人一人が持つということです。他方の究極の答えは2チャンネルで十分というものです。
 一つのチャンネルは世界のあらゆる場所の現在の様子を見ることの出来るチャンネル、例えばサッカーの試合が行われていれば、その会場のカメラの映像を見ることが出来、どこかで爆発事故があれば、その現場にあるカメラの映像を見ることが出来るチャンネルです。
 もう一つは過去に放送されたあらゆる映像を取り出して見ることの出来るチャンネルです。10年前のドラマが見たいとか、昨日のテニスの試合が見たいというときに、いつでも見ることが出来るチャンネルです。
 そのように考えてみると、「YouTube」は、後者の2番目のチャンネルを実現しつつあるし、自分が気に入った番組だけをまとめておく機能を使えば、前者の一部を実現していることになります。
 そして世界各地にあるライブカメラを集約したサイトができれば、後者の1番目も実現に近付くことになります。

 残念なことに、日本の既存のテレビジョン放送局は、このような未来を見通すことが出来ず、昨年10月に3万本以上の番組の削除を「ユーチューブ」に要請して、実際に消去されてしまいました。
 やはり、日本はIT後進国なのだということを世界に証明したのだと思います。





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