TOPページへ論文ページへ
論文

 明日11月23日は明治5年(1872)に女性の大相撲観戦が許可になった日です。
 そこで今日は女人禁制について考えてみたいと思います。
 明治5年は明治政府が西欧社会の制度や文化を一気に導入した年で、2週間前にもご紹介しましたように、官営の郵便制度を創設し、断髪令を公布し、暦を太陰暦から太陽暦に変更しましたが、さらに「神社仏閣女人結界の場所を廃し、登山参詣随意とす」という太政官布告を出しました。
 これにより神社や寺院の境内に女性も自由に入れるようになり、そこで開催される男同士の戦う大相撲も観戦できるようになったのです。
 なぜ女性の観戦を禁止していたかについては興味深い歴史があります。
 『日本書紀』の雄略天皇の記録の部分に、韋那部眞根(いなべのまね)という木工職人が石の台の上で斧を使って木材を削っていたところへ雄略天皇が訪れ「間違って斧を石の台にぶつけることはないか」と聞いたところ、「決してありません」という答えでした。
 そこで天皇が女官を集めて着物を脱がせ、褌を締めて相撲を取らせたところ、それに気を取られて、斧を石の台にぶつけてしまったということです。
 飛行の術で空中を飛んでいた仙人が川岸で洗濯をしている若い女性の白いふくらはぎに気を奪われて空から墜落した久米の仙人も同様です
 やはり女性が見物すると気が散って真剣勝負ができないというのが女性の観戦を禁止してきた理由の一つという訳です。

 それまで山岳修験道の道場であった山も修行は女人禁制でしたが、富山県の立山、石川県の白山、滋賀県と京都府にまたがる比叡山、栃木県にある日光男体山などは太政官布告とともに明治5年から女性の入山を解禁しました。
 しかし、抵抗した山もあり、長野県と岐阜県の県境にある御嶽山は5年遅れて明治10年から、和歌山県にある高野山は明治37年から解禁しましたが、山形県にある出羽三山は明治10年から一部は解禁していたものの、山伏修行を女性に解放したのは戦後になってからでした。
 私は出羽三山で長年、修験道の修行をしてきましたが、確かに女人禁制も必要かと感じたことがあります。
 いくつかの内容の修行がありますが、その一つに「滝打ちの行」という修行があります。
 これは雪解け水が流れてくる谷川の高さ10メートルほどの滝の下に行って滝に打たれながらお祈りをするのですが、男は褌1丁、女は上下の下着で行います。
 そうすると情けないことに寒さに震えながらも、薄着の女性が気になって、雄略天皇時代の韋菜部眞根のように気が散ってしまいそうになり、やはり女人禁制は理由があると感じることもあります。

 現在でも女人禁制は完全になくなってはいません。
 今年の4月4日、京都府舞鶴市で開かれていた大相撲の巡業で、多々見(たたみ)良三市長がくも膜下出血で土俵の上で倒れました。
 その時、警察官や関係者が土俵に上がって心臓マッサージなどをしたのですが、看護の心得のある観客の女性も土俵に上がって手伝っていたところ、日本相撲協会が場内アナウンスで「女性の方は土俵から降りてください」と何度かアナウンスしたことが問題となりました。
 相撲の観戦はともかく、土俵の上は現在でも女人禁制になっているのです。
 これには過去に何度も挑戦がありました。
 1990年には海部内閣の森山真弓官房長官が内閣総理大臣杯を授与したいと申し出ましたが、日本相撲協会が丁重に断り実現しませんでした。
 これには因縁があり、1978年に小学生の「わんぱく相撲」大会の東京都荒川区予選で小学5年生の女子が優勝したのですが、国技館で開かれる決勝には出場できませんでした。
 そこで当時の労働省婦人少年局長であった森山真弓さんが抗議をしたのですが、結局、覆りませんでした。その意趣返しが12年後に行われた訳ですが、やはり拒否されたことになります。
 2000年には大阪で開催される三月場所で太田房江大阪府知事が大阪府知事杯を土俵上で渡したいと申し出ましたが、これも実現しませんでした。
 さらに2011年には元大関の千代大海の断髪式で、母親の美恵さんが土俵に上がれないので、千代大海が土俵下に降りてハサミを入れてもらったということもありました。

 しかし、日本だけではなく世界にも女人禁制は残っています。
 ギリシャのエーゲ海に突き出たアトス半島の先端にアトス山があります。
 ここには20の修道院があり、東方正教会の重要な中心地ですが、ギリシャ政府から自治国家として認められており、完全な女人禁制で家畜もメスは持ち込み禁止と徹底しています。
 タイの格闘技のムエタイには二大聖地とされるスタジアムがありますが、このリング上は女人禁制です。
 最近はアメリカやイギリスの海軍では潜水艦に女性乗組員も乗船するようになりましたが、日本の海上自衛隊では現在のところ禁止されています。
 アメリカやイギリスは原子力潜水艦で艦内の空間が広いのですが、日本の通常型潜水艦は狭いために女性用のトイレや寝室を作る余裕がないというのが理由の一つです。
 ところが今年8月から女性隊員の配置の検討が始まり、数年後にはまず地上部隊に配置されるかもしれないという段階です。

 女性の自動車運転が禁じられていた世界で唯一の国サウジアラビアで、最近、話題のムハンマド皇太子の影響でサルマン国王が英断し、今年6月から女性の運転が解禁されました。
 その前段で、2009年には男女共学の大学が設立され、2015年には地方議会の選挙で女性に選挙権と被選挙権が認められるなどの解放の一環として実現したのですが、世界は急速に男女平等に移行しています。
 そのような中で、女人禁制ではありませんが、東京医科大学などで女性の入学者数を操作して制限してきた現状は異様な感じがします。
 文化伝統を維持することは重要ですが、目先の都合で平等であるべき教育の機会まで恣意的に操作することは問題だと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.