TOPページへ論文ページへ
論文

 昨年10月から12月まで東京駅の丸の内北口で興味深い実験が行われていました。
 乗客が自動改札機を通過する度に発電に貢献するという実験です。
 原理は、圧力が加わると電気が発生するという直径3センチメートルほどの「圧電素子」480個を設置したマットが改札口の床に敷いてあり、乗客が踏付けると電気が発生するという仕組です。
 一人当たりの発電量は通過する人の体重によって違いますが、70mwから100mwと微量です。
 携帯電話の電力消費が数百ミリワットですから、これだけでは携帯電話を駆動することも出来ませんが、何しろ東京駅は1日の70万人の乗客が通過しますから、集めれば無視できない程度になり、上手く行けば、自動改札機や案内表示板の電力くらいは賄えるのではないかということで、実験が行われたわけです。
 さらに、これまで無駄に道路を踏んでいただけのエネルギーが電気に変わるということでも、また、肥満で負い目を感じていた人にも自信を与えるということでも、なかなかいい発想だと思います。

 このような発想は以前からもあり、2002年に開催された「第3回サイエンスビジョン・コンテスト」では、都内の中学生が道路に発電素子を埋めて、人や車が通る度に発電するという「発電ロード」で最高賞を受賞しています。
 さらに最近では世間にある、ほんのわずかなエネルギーを有効に利用して環境問題へ貢献をしようという技術が本格的に研究されており、これを「マイクロエネルギー」とか「マイクロ発電」といいます。
 そしてすでに実用になっている製品もあります。セイコーエプソンが1988年から発売している「キネティック」という腕時計です。
 これは当初「AGS(Auto Generating System)、すなわち自動発電機構と呼ばれていましたが、運動を表すキネティックという言葉を商品名にしたものです。
 仕組は腕を振ると、内部にある半円状の重りが1分間に数万回も回転して発電機を回すという仕組です。発電能力は1mwにもなりませんが、腕時計を作動させるのには十分ということで、腕に付けてさえいれば、永久に動くというわけです。

 腕を振るというのは相当の運動ですが、日常生活にはほんのわずかな運動が色々とあります。
 例えば自動車や新幹線に乗っていると、絶えず振動していますが、それを電気に変えるという研究もおこなわれています。これも発電量はぜいぜい1mwという微量ですが、意外な応用の可能性も期待されています。
 以前、アメリカでファイヤストーン社のゴムタイヤが破裂する事故が相次いだため、2002年に「トレッド法」という法律が成立し、自動車メーカーは今年の9月までに、アメリカで販売するすべての自動車にタイヤ空気圧監視システム(TPMS)を装着しなければいけなくなりました。
 このための監視センサーを作動させるためには、タイヤの内部に電池を内蔵するか、外部から電波で電力を送るというのが現在の方法ですが、自動車の振動で発電できれば一石二鳥というわけです。

 さらにわずかなエネルギーを電気に変えるという技術も研究されています。
 冬になると外気の温度と人間の体温とは大きく違います。このような温度差を直接電気に変換できる「ゼーベック効果」を利用して発電しようというわけです。
 わずかな温度差ですから発電効率も0・1%程度ですし、一人の体温で発電できる量もせいぜい数マイクロワット、すなわち1ワットの100万分の1程度です。

 なぜこの「マイクロエネルギー」が注目されているかという第一の理由は、意外なところで大量の電気が使われるようになってきたことです。
 1985年に「ショルダーフォン」という携帯電話が登場しました。名前のように肩に担いで使うという3キログラムもある重い装置で、消費電力も35wありました。
 ところが最近では重さが100分の1になり、消費電力も100分の1になりました。ところが、この間に利用者は数万人から8700万人と1000倍以上に増えたため、電力使用量も10倍以上に増えたのです。
 これを賄うためには新しい電源が必要という訳です。

 第二は携帯でき、かつ、その場で発電できる電源の需要が高まって来たということです。
 人間は財布、時計、眼鏡、装飾品など、50近いモノを身につけていますが、それらの多くが電気で動くようになっていますし、ICタグなどが付くようになると、すべてに電源が必要になります。
 その電源を内蔵したり、無線で送電するとなると資源などが無駄に使用されます。そこで現場で発電できる電源があれば便利だということになり、振動、温度差などに目を付けることになったのです。
 このような電力を「環境発電」、英語では「Energy Harvesting」といいます。すなわち、エネルギーの刈り取りというわけです。
 情報通信技術の普及とともに、このような電源が重要になりますので、注目していただければと思います。





designed by BIT RANCH / DEGITAL HOLLYWOOD
produced by Y's STAFF
Copyright(c) Tsukio Yoshio All Rights Reserved.