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論文

 来週の1月25日から開催される通常国会に提出される新しい法律についてご紹介したいと思います。
 日本の陸地の面積は約38万平方キロメートルで世界の60位で、世界最大のロシアの45分の1、世界3位のアメリカの26分の1、僅差で4位の中国の26分の1しかありません。
 しかし、この日本を「海洋大国」と表現することがあります。確かに海岸から12海里(約22キロメートル)の範囲である領海の面積は43万平方キロメートルで陸地の面積の1・1倍ありますし、海岸から200海里の範囲内の排他的経済水域(EEZ)は448平方キロメートルと、陸地面積の12倍もあり、世界で6番目に広い面積を誇っています。
 これは1位のアメリカの40%、4位のロシアの60%、そして中国の5倍以上ありますから、海洋大国という言葉も間違ってはいないと思います。

 しかし、その海を有効に利用しているかというと疑問なのです。
 海の利用といえば、まず漁業です。かつての日本は確かに漁業大国でした。1950年から1990年までは、日本の漁業生産量は一時的にペルーに抜かれたことはありましたが、ほぼ世界1位を維持してきました。
 ところが1990年になると、1位が中国、2位がペルーで、日本は3位になり、生産量も中国の3分の1以下になり、さらに最近の2004年には、チリ、アメリカ、インドネシアにも抜かれて世界6位まで後退し、1位の中国の4分の1でしかありません。
 中国が食糧資源確保のために必死になっているということを考慮しても、かつての「漁業王国」の面影は薄れてきたのが実情です。

 もう一つ、海の利用といえばマリンレジャーですが、その代表としてモータボートやヨットなどのプレジャーボートの普及を見てみると、2000年の数字で、スウェーデンやノルウェーは7人に1艇、フランスが20人に1艇、オーストラリアが31人に1艇ですが、日本は368人に1艇です。
 普及率ではスウェーデンやノルウェーの50分の1以下、オーストラリアの10分の1以下です。
 日本はほとんどの海岸線に漁業権が設定され、自由に海岸や漁港を利用できないという行政上の制約や、ヨットやモータボートは贅沢だという意識が影響していますが、このような数字を見ると「海洋大国」とは言いにくい状態です

 さらに深刻な問題は政治的・行政的に海洋大国ではなくなっていることです。
 先程ご紹介した排他的経済水域が設定されるようになったのは、1994年に成立した「国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約)」によってですが、世界の多くの国は直ちに反応して体制を整えました。
 例えば、中国は既存の国家海洋局に権限を集中させ、1996年に海洋基本戦略をまとめました。韓国も1996年に13省庁に分散していた海洋に関する業務を統合して海洋水産部を設立し、2000年には海洋基本戦略を策定しました。
 ところが日本の現状は、海洋に関する業務が多数の省庁に分散したままで、そのため奇妙なことが発生します。
 例えば、昨年3月、知床半島で多数の油まみれになって死んだ海鳥が漂着しましたが、これは環境省の対応になります。ところが、エチゼンクラゲが押し寄せると水産物なので農林水産省が対応します。
 また、漂着ゴミについて、その場所が海岸であれば国土交通省、漁港であれば農林水産省というわけです。

 現在、東シナ海で中国が行っているガス田の開発が国交問題になりかねない状況です。
 これは10年以上前から中国が開発していたのですが、資源開発は経済産業省、他国との交渉は外務省、そして領海侵犯などへの対応は防衛庁という縦割り行政のため、どこも責任ある対応をしなかったためです。
 さらに1996年に国連海洋法条約を批准するときに、日本は国内法で、隣国と排他的経済水域が重なるときは中間線にすると決めたのですが、中国は話し合いで決めるとし、この場合は200海里全域を中国の排他的経済水域とするとしたので、中国が開発する根拠を与えることになってしまい、生産間際になって中止を要請するという外交的失態を演ずることになってしまったという経緯があります。

 また国連海洋法条約では、2009年5月までに、明確な科学的資料を添付すれば、大陸棚の範囲を拡大することができると決められています。
 日本の場合、その拡大可能な面積は65万平方キロメートル、すなわち陸地の面積の2倍近い面積が日本の主権範囲になる可能性があります。
 ところが主体的に進める役所が無かったために、調査が間に合うかどうか微妙な事態になっています。もしそうなれば、大変な国益の損失です。

 縦割り行政が諸悪の根源ということですが、これは役人が怠慢だということよりも、制度を新しい事態に対応させなかった政治の責任だと思います。
 そこで遅まきながら、2週間後の1月25日から開催される通常国会で「海洋基本法案」が議員提案されることになりました。
 これは自由民主党、公明党の与党だけではなく、民主党の国会議員も参加する「海洋基本法研究会」が検討して来たもので、この国会で成立すると、内閣府に統括する責任者を置くことになりますが、他国に比べれば半歩前進程度です。
 日本の周辺海域にはメタンハイドレートをはじめ様々な資源があり、エネルギー資源の96%、鉱物資源の大半を海外に依存している海洋国家としては、きわめて重要な法律で、その成り行きを見守って行きたいと思います。





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