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論文

 信じていただけないかも知れませんが、僕は建築学科を卒業し、国家試験にも合格した一級建築士です。しかも、途中で破門になりましたが、あの丹下健三先生の弟子でもあったのです。そこで、この番組では初めてですが、隠された能力を発揮して、最近の建築事情をご紹介したいと思います。

 日本の建築家で国際的に活躍しているというと、かつては丹下賢三、磯崎新、黒川紀章などが有名でした。もう少し下の年代になると、谷口吉生、安藤忠雄、伊東豊雄などが海外で活躍しています。
 例えば、谷口吉生はニューヨークの「現代芸術美術館(MOMA)」を2004年に完成させていますし、安藤忠雄も今年4月にヴェネチアの歴史的建造物を改装した「パラッツォ・グラッシ」を竣工させました。伊東豊雄もロンドンの「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」を2002年に実現しています。

 これらの3人は僕と同年代かやや上ですが、最近、それよりも若い世代が海外から高い評価を受けています。
 例えば坂茂(ばんしげる)はパリにあるポンピドー・センターの分館をメスに建設中ですし、妹島和世(せじまかずよ)と西沢立衞(にしざわりゅうえ)の共同設計事務所「SANAA」もアメリカのオハイオ州トレドに「トレド美術館ガラスパビリオン」、ニューヨークのマンハッタンに「ニューミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート」、さらにフランスのランスにルーブル美術館の分館である「ルーブル2」を設計しています。
 坂茂は1957年生まれの49歳、妹島和世は1956年生まれの50歳、西沢立衞は1966年生まれの40歳です。そしてさらに若い世代である石上純也、乾久美子なども海外の仕事を手掛けています。

 かつて日本の建築家が海外で仕事をするというと、日本の企業が海外に建てる建物とか、ODAで日本が援助する建物が大半でしたが、坂茂、SANAAなどは堂々と国際競技設計で一等賞を受賞しての仕事ですから、快挙と言ってもいいと思います。

 何故かということですが、ご紹介した若い世代の建物は僕などから見ると、頼りない感じがする建物ばかりです。例えば、ポンピドー・センター分館は竹を編んだような屋根ですし、ニューミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アートも紙のはりぼてで作ったような外観です。
 もちろん欠陥マンションとは違って、きちんとした構造設計に基づいた建造物ですから安全性の問題はないのですが、やはり何となく不安を与えるような外観です。
 しかし、これが従来の西欧の建物に無かった軽やかな印象で、高く評価されているということのようです。
 アメリカの有名な建築雑誌の編集長は「日本人建築家の繊細な感性は世界で認められています。日本には古来、素材を深く理解する力、そして建物そのものを芸術と捉える独創性がある」と絶賛しています。

 日本人が評価しないものを海外が高く評価しているということになるのですが、これは過去にも何度も例があることです。
 有名な例は「浮世絵」です。歌川広重の「名所江戸百景」に「大はし阿たけの夕立」という版画があります。これは現在の浜町あたりに架かっていた大橋に夕立が降っている景色を俯瞰で描いたものですが、オランダの有名な画家ゴッホが油絵で模写した「雨中の大橋」という絵が残っています。特に雨を細い線で描いていることに感動したようです。
 同じように「亀戸梅屋敷」を模写した「花咲く梅の木」や、英泉の花魁の浮世絵を模写した「英泉の版画による日本の俳優」という油絵もアムステルダムのファン・ゴッホ美術館にあります。
 いずれも1880年代の作品なのですが、なぜ浮世絵がゴッホの目に入ることになったかということですが、日本の浮世絵は現代のカレンダーのような存在で、使い捨てのものが多かったのです。
 そこで幕末から明治にかけて、陶磁器を輸出するときの緩衝材として丸めて詰め込またことがあり、それがゴッホの目に留まったということのようです。
 そして外国で評価されたということで、日本でも浮世絵の価値が上がったということになりました。

 同じような経緯で「桂離宮」も再評価されるようになりました。1933年にドイツの建築家ブルーノ・タウトが日本に亡命し、1936年まで滞在しますが、彼は桂離宮を見て感動し、日光東照宮よりも桂離宮を高く評価し『ニッポン』とか『日本美の再発見』という本で、桂離宮を絶賛します。
 当時の日本では日光東照宮のほうに人気があったのですが、その本の影響で桂離宮の株が一気に上がるということになりました。
 それ以後も、自分の国にある宝を自分で評価せず、外国から評価されて再認識するということは何度もあります。最近の若手建築家の活躍も同じかも知れません。
 確かに隣の芝生は緑ということかも知れませんが、自信を持って自国の財産を評価したいと思います。





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