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論文

 日本国内では1日に約2200便の定期航空便が飛んでおり、毎日28万人以上の旅客を運んでいます。ほとんどの人は飛行機が飛ぶことに疑問を持たず、安心して乗っておられると思いますが、飛行機がなぜ飛ぶのかということについては、実は科学的には完全に解明されてはいないのです。
 確かに大型の旅客機は燃料を一杯にしたときは300トン以上、大型乗用車300台ほどの重さがありますから、それが自動車の10倍以上の速さで飛んでいるということは、考えてみれば不思議なことです。
 実際、僕の恩師の一人は著名な機械工学の学者でしたが、飛行機が飛ぶのは信用できないと言って、外国へは生涯に数度しか行かず、国内での講演も鉄道で行くことができる場所しか引き受けられませんでしたから、飛行機が飛ぶのは不思議だと思う人がいてもおかしくはないと思います。
 しかも、先程の意見は怪しげな学者が言っているのではなく、アメリカのシカゴ郊外にあるフェルミ研究所という有名な高エネルギー物理学の研究所の物理学者で、それ以前もロスアラモス研究所や欧州原子核研究所(CERN)で研究しているデビッド・アンダーソン博士の意見なのです。
 それも酒飲み話ではなく、スコット・エバハートという学者と共著で、2001年2月に『飛行を理解する(Understanding Flight)』(マグローヒル出版)という本で、従来の理論は間違っていると書いたのです。
 さらに、その年の5月には、『ニューサイエンティスト』という立派な科学雑誌からインタービューを受け、自説を説明しています。そして、本人は飛行機の操縦免許を持ち、自分で自家用機を操縦しているのですから、ますます心配になります。

 これまでの理論は、僕も大学で教わったのですが、18世紀に活躍したスイスの物理学者かつ数学者であったダニエル・ベルヌーイが1738年に発表した「ベルヌーイの定理」によって説明されてきました。
 これは飛行機の翼の断面のように、一方が直線で、一方が上に凸の曲面のような物体に空気の流れが当たると、翼の上側の空気の流れが下側よりも速くなります。その結果、下側より上側の圧力が小さくなるので、翼を下から上へ押し上げる揚力が働いて飛行機が浮上するという理屈なのです。
 ゴルフボールが飛ぶのも同じ理論で、ディンプルのないボールを真空の中で思い切り打っても100mも飛ばず、ベルヌーイの定理に従ってボールの上下に圧力差が生じて、ボールが浮くので300m近くも飛ぶと説明されています。

 しかし、アンダーソン博士によると、この説明には2つの問題点があるそうです。第一は翼の断面の形が浮上する根拠だとすれば、背面飛行をすることはできないということになるということです。
 第二は、ベルヌーイの定理は翼の上側の空気の流れが速くなるという根拠を示していないということです。
 そしてアンダーソン博士は、ニュートンの第三法則である作用反作用の法則こそ翼が浮力を得る理由を説明する原理だと言っています。すなわち、翼が空気を押し下げ、その反作用で空気が翼を押し上げるというわけです。
 このような意見には賛否両論あり、他の説明もなされています。現実にはベルヌーイの定理を基礎に設計された飛行機が毎日、世界中で数百万人の人をほとんど無事に運んでいるのだからいいのではないかということですが、ここで申し上げたいことは、科学の発展には、当たり前だと思われていることに疑問を持つことが重要だということです。

 同じように科学が完全には説明できていない現象は、物質には右利きと左利きがあるということです。これは手袋の左右を想い出していただくと分かりやすいのですが、一見そっくりのようですが、これは重ね合わせることの出来ない別のものです。
 例えば、人工甘味料でアスパルテームという物質があります。これは砂糖の200倍も甘いという甘味料ですが、左右対称の分子構造のものがあり、一方は甘く感じ、他方は苦く感じるというほど性質が違います。
 生命体を作っているタンパク質の素はアミノ酸ですが、これにも左右の別があります。ところが生命体のほとんどは左利きのアミノ酸で出来ている一方、遺伝情報を記録している核酸を構成する糖類はほとんど右利きなのです。この原因は現在でも解けていません。

 この12月1日にアメリカの科学雑誌『サイエンス』に、中村圭子研究員をはじめとするNASA(アメリカ航空宇宙局)の研究チームが、カナダの凍結している湖に落下した隕石から太陽系が誕生する以前の有機物を発見したという論文が発表され話題になっていますが、そのような隕石に左利きのアミノ酸が乗って地球に飛来し、地球の生命体の素になったという説もあります。

 科学が大変に発達した現代は、どのようなことも科学で説明できると錯覚しがちですが、実は分からないことだらけだと言うことです。
 そこで最後にニュートンの有名な言葉を紹介したいと思います。
 「世間が私をどのように見ているかは知らないが、私は海岸を歩きながら美しい小石や貝殻を見つけて喜んでいる少年にすぎない。目の前には知られない真理の大海が横たわっている」という訳です。





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