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論文

 情報通信技術は技術革新がもっとも速い分野ですが、今日はその最先端の紹介をさせていただきたいと思います。
 ここ10数年の情報通信技術の進歩を簡単に振り返ってみると、1990年代に入ってデジタル技術が主流になりマルチメディア時代が始まりました。
 携帯電話が象徴ですが、1台の端末と1種類のネットワークで、音声だけではなく文字も写真も送ることができるようになりましたが、これはデジタル通信技術の恩恵です。
 90年代中頃からインターネットが一般の人々にも浸透するようになり、インターネット時代になりました。これによって通信料金が距離にも時間にも関係なく一定という定額料金時代になり、爆発的に普及しました。電話を国民の一割が使うようになるまで、日本では80年近くかかりましたが、インターネットは5年もしない間に国民の1割に浸透したのです。

 そして21世紀になってブロードバンド時代が始まり、世界各国が高速の通信網を整備する競争を始めました。日本は普及では出遅れていますが、世界でもっとも安くブロードバンドネットワークを利用できる国になりました。
 2003年の資料ですが、単位情報量当たりの通信料金では、アメリカの40分の1、イギリスの70分の1という安さです。
 そして昨年あたりから、この番組でもご紹介させていただいたユビキタス時代、すなわち、どこでも、いつでも、なにとでも大容量通信ができる時代が始まっています、というのが、この10数年間の歴史です。

 ところが最近、さらに先を目指した新しい情報通信技術が話題になり始めました。 
 そのキーワードは「アンビエント」です。
 例えば、アンビエント・ライトというと間接照明のことですし、アンビエント・ミュージックというと環境音楽というように、環境に溶け込んだという意味で使われる言葉です。
 そこで情報社会でも、情報が環境に溶け込んだ時代を創り出そうというわけです。
 例えば、時間を知りたいというときに、かつてはおもむろにポケットから懐中時計を取り出して時間を知るというのがステータスでしたが、最近では、街中であれば、辺りを見回せばどこにも時計がある時代です。
 しかし、アンビエント時代になると、時間が知りたいと思うと音声なり画面なりで周囲から時間を知らせてくれるという仕組を実現しようというわけです。

 腕時計を見れば十分ではないかと思われるかもしれませんが、時刻程度であれば、その通りですが、必要な情報を知りたいというと、そうはいかないと思います。
 現在、情報はデジタル情報に変換され、様々な記憶装置に蓄えられていますが、2000年に世界でデジタル情報として蓄えられていた情報は62億ギガバイトでしたが、2003年には6倍の320億ギガバイトになりました。これはざっと単行本にして200兆冊という想像もできない量です。
 平成16年度末の国立国会図書館の蔵書数が840万冊ですから、その2000万倍と言っても、これも想像できませんが、仮に国立国会図書館の大きさの建物で収納すると、日本の国土の2倍の面積を図書館で埋め尽くすことになります。

 この情報洪水のなかから必要な情報を探すために、グーグルをはじめとする検索システムが開発され便利になっていますが、それでも一日の仕事時間の30%は情報を探すために使っていると推定されています。
 人間が認識でき理解できる能力については「ウェーバー・フェヒナーの法則」という古典的な法則があります。人間が認識できる量は与えられた物理量の対数程度だという法則です。
 例えば、乗り物の速度が10倍になると人間は速くなったと感じますが、もう2倍速くなったと感じるためには、20倍になるのではなく、100倍にならなければ感じないということです。
 つまり、社会に蓄積される情報量が増えていっても、人間が利用できる量には限界があるということです。
 そこで「ファインダビリティ」という言葉が作られました。「見つけられないものは使うことができない」「見つからなければ情報ではない」というわけです。

 かつての貴族社会を描いた映画などを見ると、長年支えている有能な執事が側にいて、「向こうから近付いてくる方は、先日、仕事でお世話になった○○社の社長様です」とか「○○社は負債がふくれあがって倒産の噂もあります」とか「そろそろパーティ会場から退出して、次の会議にご出発でございます」などと耳元でささやいてくれる場面が出てきます。
 これを自分の居る環境が行ってくれる情報社会を作ろうというわけです。つまり、どこにいても自分専用の有能な秘書が側にいて、必要な情報を必要なときに周囲から与えてくれるという社会です。
 そのためには、ホットスポットやWiFi(ワイファイ)といわれる無線LANの普及や、コンテキスト・アウェアネスといわれる個人が置かれている状況を判断する技術の開発などが必要ですが、世界各国が次の時代の情報技術として一斉に開発を競っている分野です。
 いつも秘書や執事につきまとわれては憂鬱だという心理的な問題や、プライバシーが侵されるという社会的な問題も並行して解決していく必要はありますが、技術は着々とこの方向に向かい始めています。





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