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論文

 10月20日に沖縄県石垣島で新石垣空港の起工式が行われました。この計画が策定されたのは1976年ですから、実に30年の年月が経過しています。
 なぜそれほど時間がかかったかというと、環境破壊の観点から様々な反対があり、建設予定地が何度か変わってきたからです。
 1979年に白保といわれる地区の海岸を埋め立てることに決定しましたが、この白保の海にはオーストラリアのグレート・バリアリーフに匹敵するほど多様な種類のサンゴが生息しており、それが破壊されるという反対が強く、2000年に石垣島ゴルフ倶楽部のあるカーラ岳の南側の陸上に変更され、今回の起工式にたどり着きました。
 順調に工事が進めば6年後の2012年に開港予定ですが、現在、新石垣島空港の設置許可取り消し訴訟が起こされていて、判決によってはまだまだ変更になる不確定要素があります。

 その訴訟に関する第1回の口頭弁論が10月25日に東京地方裁判所で行われましたが、大変に興味深い内容でした。
 それは現地に生息するアオサンゴが意見陳述をしたことです。今年6月に住民など121人が提訴したのですが、そのときにアオサンゴは「もっとも被害を受ける者」として原告に加わり、同様に予定地の洞窟に生息している絶滅危惧種のヤエヤマコキクガシラコウモリも「生息する洞窟などで絶滅に追いやられる」という理由で原告に名前を連ねているのです。
 もちろんアオサンゴやコウモリが口を利くわけではありませんが、代弁者が代わって意見陳述をするわけです。
 東京新聞の記事によると、代弁者が「私は白保の海に棲んでいるアオサンゴです」と自己紹介し、「数百年もの間、10キロメートルほどのサンゴ礁でひっそりと幸せに暮らしてきました。子孫を増やし、北半球で最大最古といわれる大群落を作りました」と始まり、建設予定地になってから「周りは突然騒がしくなりました。沖縄県の調査船と住民の漁船が海戦さながらに行き交い、浜からは機動隊ともみ合うオジイやオバアの泣き叫ぶ声が聞こえてきました」と続き、最後は「国土交通省は沖縄県の杜撰な環境アセスメントを真剣に審査せず、空港設置を許可した。海は決して人間ばかりのものではないということを分かってほしい」という訴えで終わりました。
 東京地方裁判所は動物が訴えることを認めないので「アオサンゴことだれだれ」となり、国は「自然物には権利能力が無い」としてサンゴやコウモリの原告適格を否定して請求を退けることを要求しています。しかし、この訴えには長い歴史があるのです。

 戦後になって、アメリカのシェラネバダ山脈にあるミネラルキング渓谷にウォルト・ディズ二ー社がスキー場を作ってリゾート開発をするという計画を発表しました。これに対して、環境保護団体であるシエラクラブが反対をしたのですが、カリフォルニア州の高等裁判所は地主でもないシエラクラブには侵害される法律上の利益がなく、訴訟をする当事者適確がないとして訴訟を受け付けませんでした。1970年のことです。
 そこで、当時、南カリフォルニア大学の法哲学教授であったクリストファ・ストーンが「樹木の当事者適格:自然物の法的権利について」という論文を発表し、判事に送付しました。
 その内容は、社会が進化するに連れて、法律は変化し、これまでも無生物である法人に権利を認めて来た。植物状態にある人間や胎児も同様である。その延長線上に、森、海、川などの自然物にも法的権利は与えることができる。したがって、今回の訴訟でも、被害を受ける樹木に代わってシエラクラブが訴訟を起こすことができるというものです。

 連邦最高裁判所では僅差で上告棄却となり、負けてしまいましたが、これが先例となって、アメリカでは動物などを原告の冒頭にして訴訟をする例が増え、いくつかは勝訴になっています。
 そして日本でも、これまでにいくつか登場しています。有名な例は鹿児島県奄美大島で2カ所のゴルフ場開発について、鹿児島県知事の開発許可の取り消しを求めた訴訟で、アマミノクロウサギなど3種類の野生生物を原告とした例があります。
 すでにお分かりのように、今回のサンゴやコウモリが原告に加わっているのは、この論理によるものです。
 このような考え方は「自然の権利」といわれ、自然は人間が搾取する対象ではなく、人間と対等の権利をもつ存在であるという思想が、現在、静かに広がっており、そういう点で今回の訴訟の行方は興味深いものです。





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