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論文

 今年の6月1日に「ご当地検定試験」がブームになっているという話をさせていただきましたが、これは地域が独自の発展を目指している努力の現れです。
 そこで今日は、もう一つの地域の努力である「ご当地商品」をご紹介したいと思います。
 「関アジ」や「関サバ」をご存知だと思います。これは大分県佐賀関港に水揚げされるアジとサバですが、豊後水道の速い潮流で育つので、身が締まっており、しかも巻き網ではなく一本釣りで獲るので新鮮なため、関アジは一尾4000円とか、関サバは一尾7000円など、普通のアジやサバよりも一桁高い値段で取引されています。
 そのため他所で獲れたアジやサバも関アジとか関サバという名前を付けて売られることが多かったのです。そこで佐賀関の漁業共同組合では、一匹一匹の尻尾にシールを付けて、本物であるという証明としてきました。

 松阪牛(マツサカギュウ)も同様で、2002年には牛1頭が5000万円という値段で競り落とされるほどで、小売では200グラムのステーキ用の高級な肉には7000円程度の値段が付いています。
 そうなれば他所の牛肉も松阪牛の名前を使うということになるので、地元の松阪肉事業協同組合では松阪牛と名乗るためには
 1)三重県の宮川と雲出川の間で飼育された牛
 2)メスで出産未経験牛
 3)牛は兵庫県但馬地方産の黒毛和牛
 4)3年間飼育されていること
という条件を満たさなければいけないと決めました。

 しかし、このような名前には法的根拠が無く、マークを商標登録するだけなので、デザインを変えて「松阪牛」とすれば、他の地域でも名前は使用可能でした。そこで、今年の4月に商標法が改正されて「地域団体商標制度」が制定され、地域の有名な産品に地域の名前を付けて商標登録することが可能になりました。
 これまでは地名、普通名詞、原材料名を一部の地域が独占するのは公平ではないという理由で、それらを冠した商標を認めず、名産品としての実績や全国的な知名度があると証明できた少数の商品、例えば「夕張メロン」「三輪素麺」「西陣織」「信州味噌」「前沢牛」など十数件が例外的に認められていただけでした。
 しかし、今回の改正で「個人ではなく、地域の事業協同組合や農業協同組合などの法人」に対し「隣接県に及ぶほど認められていること」を条件に認めるよう緩和されました。
 日本中の人が知らなくても、隣の県の人が知っていれば商標登録可能になり、半年ほどの審査で、地域と密接に関係があると認められれば、名前を独占できるようになりました。

 そこで、「関アジ・関サバ」や「松阪牛」は当然として、各地から申請が殺到しているという状況になり、7月13日時点で494件が出願され、都道府県別では京都が122件、沖縄が30件、石川が29件と熱心で、石川は昨年から補助金を用意しているほどです。
 これまでも一般に知られているものでは「南部鉄器」「草加せんべい」「輪島塗」「九谷焼」「讃岐うどん」「博多人形」などの物産や、「山代温泉」「三朝温泉」のような地域の名前も申請中ですが、新たな名前を作る動きも登場しています。
 茨城県はあんこうで有名ですが、茨城沿海地区漁業組合連合会は「茨城あんこう」という名前を新たに作って登録していますし、日本でよりも台湾などで有名な長いもの産地、帯広市の川西農業共同組合では「十勝川西長いも」の名前を登録しています。

 しかし、熱心すぎて問題も発生しています。日本では駿河湾の深海でしか獲れない桜えびがありますが、由比港漁業共同組合は「由比桜えび」、蒲原町と大井川町の桜海老商業共同組合は「駿河湾桜えび」を申請しています。両方とも台湾産と区別するということでは共通の目的ですが、買う立場からは分かりにくい名前です。

 このような商標登録は生産者の立場からは、苦労して育ててきた商品を類似商品から保護するという効果や、やはり名前があればその水準に背かない商品を作るという意味がありますし、消費者の立場からは、安心して買うことが出来るという効果があると思います。
 また日本では地方分権で各地が自立を目指さなければならない時代になり、その一環として地域ブランド商品を確立したいという意向も反映していると思います。
 しかし現在、世界全体でブランディングという言葉が流行し、イギリスなどは国家全体としてブランドを確立しようとしていますし、日本も地域ごとに戦略を考えています。時代が情報社会になり、経済の力だけではなく、人を引き付けることが力になるという時代を背景にした動きだと思います。





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