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論文

 いよいよ夏休みも真っ最中で、多くのお子さんが昆虫採集に行かれると思いますが、最近、この昆虫が産業界から注目されています。そのキーワードは「インセクト・テクノロジー」、昆虫応用技術です。
 すでに人間はこれまで色々な形で昆虫を利用してきました。
 子供たちがカブトムシやクワガタに夢中になるのはペットとして利用している訳ですが、これは日本で10万人以上の愛好家がいると言われています。
 また、鈴虫を飼育して音色を楽しむという趣味は平安時代から知られていますし、江戸時代には人工飼育も始まっています。
 もう少し実用的な利用は、まず食用です。僕の子供のころはイナゴの佃煮がありましたし、蜂の子やザザムシは最近では珍味になっていますが、かつては山村の貴重なタンパク質源でした。
 また、ハチを使って蜂蜜を手に入れるとか、蚕を使って絹織物を手に入れるという利用もしてきました。さらに国宝になっている玉虫の厨子のように美しい昆虫の羽を装飾にも使ってきました。
 しかし、インセクト・テクノロジーはさらにハイテクとして利用しようという動向です。

 その前に昆虫の特徴を説明したいと思いますが、そもそも昆虫は地球の歴史のなかで、最初に地上に進出した動物であり、最大の特徴は種類が多いということです。
 生物の体系的な分類をした最初の学者はスウェーデンのカール・フォン・リンネですが、彼が1758年に出版した「自然の体系(Systema Naturae)」には1937種類の昆虫が記載されています。
 ところが100年後には、すでに10万種類が知られ、現在では80万種類が命名  されています。現在、人間が知っている動物の種類は120万種類くらいだと言われていますから、動物の7割は昆虫というわけです。
 さらに人間が知らない昆虫の数は推定800万種類とも言われていますから、膨大な種類が存在していることになります。ちなみに、このような分類では人間は1種類しか存在していませんから、昆虫の多さが分かると思います。

 その多数の昆虫の中には人間に比べると異常な能力を持った種類が居ます。例えばアリは自分の体重の5倍の物を加えて運び、25倍の物を引っ張って運ぶ事ができます。これは人間に例えると、300キログラムのグランドピアノを持ち上げて運び、乗用車を引っ張って運ぶことができるということです。
 また蝶は小さな身体ですが、長距離を飛ぶ事もでき、アサギマダラという蝶は大阪から台湾まで2000キロメートルを飛んだという記録があります。これも人力飛行機に例えてみると、無着陸で地球を5周することに匹敵しますから、異常な能力です。

 このような能力を人間社会に持ち込もうというのがインセクト・テクノロジーなのです。いくつかの成果を紹介したいと思います。
 まず研究が進んでいるのが蚕から採れる絹の利用です。絹は繊維として吸湿性が綿の1・5倍、紫外線を吸収する能力がある、300度から400度にならないと燃えないなどの優れた性質があるので、繊維としては使われてきましたが、人間の皮膚と同じ動物性タンパク質でできているので、人工皮膚を作ったり、酸素を透過しやすいコンタクトレンズの素材に使われたりしています。
 医薬品としても冬虫夏草のような伝統的な漢方薬もありますが、院内感染の原因であるMRSAを防ぐ物質がタイワンカブトの幼虫から発見され、ガン細胞を死滅させる物質がモンシロチョウから発見され、脳梗塞を防ぐ物質が蚊やカメムシの一種サシガメから発見されるなど医薬品の分野でも注目されています。

 また生物農薬も研究が進んでいます。例えば、チリカブリダニという肉食のダニは1匹で20匹ほどのハダニを食べるので、それをまくとハダニを食べてくれます。
 スタイナーネマという昆虫に付く線虫は0・6ミリほどですが、これを撒いておくとゴルフ場の芝生に付くゾウムシを退治する効果があるなどで、すでに製品としてd発売されています。

 その一方で物騒な研究も進んでいます。蚊やトンボが薄い羽で巧みに飛びますが、その仕組を研究して超小型飛行ロボットを開発するとか、007の新作「赤い入れ墨の男」は日本が舞台になっていますが、そこには強力な殺傷能力をもった蚊が開発され、次々と人を殺して行くというストーリーです。
 このような危険な面が無い訳ではありませんが、昆虫の能力はこれから人間社会に取り入れられていくと思います。
 そのようなことも考えながら、夏休みに昆虫を追いかけると、さらに面白いのではないかと思います。





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