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論文

 先々週に18世紀末にベネチアが衰退し滅亡したという歴史が日本の将来を考える上で参考になるというお話をしたところ、色々と反響がありましたので、他人の振り見て我が振り直せシリーズの第二弾として、ナウル共和国という国をご紹介したいと思います。

 ナウル共和国というのは赤道直下に近い太平洋にある小島で、面積21平方キロメートル、伊豆七島の御蔵島とほぼ同じ面積に、約1万人が生活している国です。面積ではバチカン市国、モナコ公国に次いで世界で下から3番目、人口でも世界の下から3番目という小さな国です。
 しかし、世界では上から2番目に豊かな国でした。その歴史からご紹介したいと思います。
 もともとはポリネシア系やメラネシア系の先住民族が生活していたのですが、1798年にイギリスの捕鯨船ハンター号が立寄って、西欧社会に「発見」されたのが発端です。
 その船長のジョン・ファーンが「プレザント・アイランド」、快適な島と名付けたことからも分かるように、過ごしやすい島でした。
 1888年にドイツ領となりますが、その翌年に、この島全体がリン鉱石に覆われていることが発見され、この島の運命が激変します。

 どうして火山でもない珊瑚礁の島がリン鉱石で覆われているかというと、アホウドリなどの糞が大量に蓄積され、その成分が珊瑚礁の炭酸カルシウムと反応して、数百万年かけてリン鉱石に変化したわけです。
 リン鉱石は肥料としても化学の原料としても有用なので、1906年にイギリスとドイツの合弁会社が掘り始めたのですが、第一次世界大戦が始まった1914年にはオーストラリアが占領し、ドイツが戦争に負けてからは、国際連盟の委任統治領になってイギリス、オーストラリア、ニュージーランドが管理し、さらに1941年に第二次世界大戦が始まって、1942年には日本軍が占領し、戦後はアメリカが占領し、1947年には国際連合の信託統治地域になりというように、転々と持主が変わってきたのですが、やっと1968年にイギリス連邦の一員として独立するという激動の歴史を経験してきました。

 ナウルが独立するまでは、イギリスとオーストラリアとニュージーランドの合弁会社がリン鉱石を採掘して、その利益のほんの一部をナウルの人々に分けていただけですが、独立して国営ナウルリン鉱石株式会社が利益を独占し、それをわずかな人数の国民に配分したので、一人あたりの国民所得が2万ドル以上になり、突然、世界一、二の豊かな国になってしまいました。
 その結果、食料もエネルギー資源も100%輸入しているにも係らず、無税のうえに、教育費、医療費、電気代はすべて無料、結婚すると政府が住宅を一軒無料で提供してくれ、島の医療施設では手に負えない病気になると、飛行機でオーストラリアに送って治療を受ける、さらにチャーター機で島民は外国に買い出しに行くという生活になりました。
 リン鉱石の採掘作業は出稼ぎの労働者が行いますので、ナウル国民で働いているのは国会議員だけという冗談が通用するほど、地上の楽園になったのです。

 ところが、だれもが予想できることですが、リン鉱石は小さな島の表面を覆っているだけですから、やがて枯渇します。
 実際、1970年代には最高で年間239万トンを産出していたのですが、現在では5万トン程度と40分の1以下になってしまい、最近の実質国民所得は1400ドルと15分の1になってしまい、医療も十分ではなく、平均寿命が53歳から49歳に下がるという状態です。
 そしてついに2001年には国家財政が破綻してしまいました。

 ナウルのような小さな国と、現在のところ世界第2位のGDPを維持している日本を比較することに意味があるかと思われる方も多いかも知れませんが、他山の石となることは色々あります。
 ナウル政府もリン鉱石がやがて枯渇することは分かっていましたから、そのためにホテルを建設したりして観光産業を発展させようと努力してきましたが、数十年間働いたことがない人々にとって、他人にサービスことには身が入らず上手く行きません。これは現在のニート現象を思わせるものです。
 つい最近、日本政府と地方自治体の長期債務残高が770兆円近くになったという発表がなされましたが、プライマリーバランスを取り戻すためだけでも消費税の大幅値上げが必要です。これも収入を考えずに放漫な公共事業などを行ってきた付けだと考えれば、財政破綻したナウルを笑うことはできないと思います。
 そして、食料の60%、鉱物資源やエネルギー資源のほとんどを輸入しているという現状も、いつまでも続けられるものではないと考えると、ナウルは日本の将来を数十年に圧縮しているのかもしれません。





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