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論文

 記憶が80分しか続かない数学者を主人公にした映画「博士の愛した数式」が上映され話題になっていますが、数学者を主人公にした映画作品は意外にいくつもあります。
 有名な作品では、1994年にノーベル経済学賞を受賞した実在の数学者ジョン・フォーブスナッシュ・ジュニアをモデルにし、2001年の第74回アカデミー賞で作品賞や監督賞などを受賞した「ビューティフル・マインド」がありますし、2006年のアカデミー賞最有力候補といわれながら、何も受賞しなかった「プルーフ・オブ・マイライフ」も数学者が主人公です。
 なぜ数学者が映画の主人公になるかというと、世間一般からすると変人が多いのでモデルにしやすいということではないかと邪推していますが、そのような数学者が挑戦してきた数学の難問について今日はご紹介したいと思います。

 最初は「巡回セールスマン問題」といわれる難問です。例えば、あるセールスマンが東京から出発して日本の残りの46の県庁所在地を回って、最後に東京に戻って来るとして、もっとも短い距離で回るのには、どのような順番で回ったらいいかという問題です。
 これは都市の数が少ないとすべての場合を計算してみればいいのですが、都市の数が増えて行くと急速に巡回する経路が増えてしまい、解決が困難になります。
 例えば5都市の場合は24の経路しかありませんが、10都市になると一気に36万2880の経路になりますから簡単ではありません。
 2000くらいの都市を巡回する問題は、コンピュータを一日中回して計算すれば答えが得られますし、絶対に最短ではないが、ほぼ最短という近似的な答えを得る方法はいくつかあります。しかし、一般的に必ず最短の経路を発見する方法はまだ見つかっていません。

 第二が「四色問題」といわれる地図を塗り分ける問題です。行政区画を入れた地図を市町村毎に色分けすると、4色あれば必ず隣同士は別の色になるということを証明する問題です。
 これは実際に塗ってみれば必ず4色で色分けできるのですが、数学的に証明しようとすると難問でした。しかし、1976年にケネス・アップルとウォルフガング・ハーケンがコンピュータを駆使して証明に成功しました。
 しかし、5色あれば必ず塗り分けられるという証明は簡潔なのですが、この4色の証明は当時のスーパーコンピュータを1200時間も使って、あらゆる場合を潰して行くという力ずくの証明だったので、エレガントな証明ではなく、エレファントな証明、すなわち図体の大きな象のような証明とややからかわれるような状態でした。

 次の難問は大変に有名な「フェルマーの最終定理」といわれる問題で、X**n+Y**n=Z**nという式で、n=2の場合はピタゴラスの定理で、X=3、Y=4、Z=5などと整数で成り立つ場合がありますが、nが3以上になると、それを満足する整数のX,Y,Zは存在しないという定理です。
 この難問を考えたピエール・ド・フェルマーは17世紀のフランスの人で、本業はトゥルーズ地方議会の顧問でしたが、趣味で数学を研究し、色々と発見していたのです。
 しかし、その成果を論文としてまとめず、本の余白に書いたり、友達に手紙で知らせるだけだったので、発見の栄誉を得ることができませんでした。
 この問題もギリシャの数学者ディオファントスの数論の本の余白に書き記し、「この証明方法も発見したが、余白が狭いので書くことが出来ない」としか書き残さなかったため、350年以上に渡って多くの数学者が挑戦することになりました。
 結局、1995年になって、プリンストン大学のアンドリュー・ワイルズ教授が9年間かけて証明し、決着がつきましたが、その証明からすると、フェルマーが証明方法を発見していたというのは間違いではなかったかと言われています。

 まだまだあります。「ゴールドバッハの予想」という問題は、4以上の偶数は2個の素数の和として表現できる、そして奇数は3個の素数の和で表現できるという内容です。
 例えば、50という数字は13+37で表現できますし、51という数字は5+17+29と表現できますから、その通りですが、一般的に、どのような数字についても証明するのは大変な難問で、いまだに解決されていません。

 日本は若者の科学離れや数学離れが問題になっており、実際、世界各国を比較して35位という低い順位です。どうも日本人は金儲けに走りすぎて、何の役にも立ちそうにない数学には興味が薄いのではないかと思います。
 しかし、最初にご紹介した映画や、ワイルズ教授がフェルマーの最終定理を証明する過程を記した「フェルマーの最終定理:ピュタゴラスに始まりワイルズが証明するまで」(サイモン・シン 2000 新潮社)や「天才数学者たちが挑んだ最大の難問:ファルマーの最終定理が解けるまで」(アミール・D・アクゼル 1999 早川書房)などを読むと、数学はドラマだということが分かります。ぜひ、数学を頭から難しいと思わないで、関心を持っていただければと思います。





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