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論文

 今年の4月29日に羽田空港の航空管制に重大なミスがありました。補修工事で閉鎖されていた滑走路に2機の飛行機を着陸するように管制官が誘導したというミスです。1機は直前に着陸を回避しましたが、1機は着陸してしまいました。もし滑走路に工事車両などが置かれていれば大惨事というところでした。
 11月17日には、現在、社会的大問題になっているホテルやマンションの耐震強度設計の偽装問題が表面に出てきました。そして12月8日には、みずほ証券がジェコムの株式の誤発注をするという事件が発生しました。
 その原因は職業倫理が荒廃しているとか、システムのフェイルセーフ機能、すなわち間違いが発生したときに未然に防ぐ機能が十分ではなかったとか、姉歯事件の場合は官がすべきことを民に任せたことが原因などと分析されていますが、今日はやや違う視点から、これらの問題の背後に共通している原因を考えてみたいと思います。
 そのキーワードは「ブラックボックス」です。

 ブラックボックスという言葉をよく聞くのは航空機に搭載されている2つの機器です。
 1つはCVR(コックピット・ボイス・レコーダー)で、航空機の操縦席に設置されて、操縦士や副操縦士の会話を2時間に渡って録音している装置です。
 もう1つはFDR(フライト・データ・レコーダー)で航空機の飛行状況のデータを25時間に渡って記録している装置です。
 実際は赤色に塗られたレッドボックスですが、1100℃の温度にも耐え、6000メートルの海底に沈んでも壊れない頑丈な装置で、飛行機事故があると回収されて原因究明に利用されています。
 しかし、普通、ブラックボックスという言葉は、どのような役割をするかは明確ですが、その仕組はよく分からないという装置などを呼ぶときに使われます。
 例えば、銀行の店頭でATMを操作すると、相手の口座に送金できます。だれでも画面の指示に従ってキーボードを操作すれば、目的を達成できますが、その仕組を分かっている人はほとんどいないということで、こういう状態をブラックボックスというわけです。

 最初に紹介した3つの事件に共通しているのは、すべてコンピュータの支援なしではできない仕事ですが、そのコンピュータが動いている仕組が一人の人間の能力を超えてしまって、使っている人間にはブラックボックになってしまっているということです。
 これらのシステムを制御しているプログラムは、正確には分かりませんが、数百万行(ステップ)の命令で構成されており、何百人というプログラマーが手分けして何年という時間をかけて制作します。したがって部分部分は詳細に分かっている人はいますが、全体を詳細に分かる人はほとんどいないのが実際です。
 そこでブラックボックステストという方法でプログラムが目的通りに動くかを試験する場合が多いのです。色々な場合を想定したデータを入力し、その答えが期待したような内容であれば大丈夫というわけですが、あらゆる場合を想定して試験をすることはできないので、予想外のデータなどが入力されると、とんでもない間違いが発生することになるというわけです。

 現代社会の問題は、コンピュータのシステムだけではなく、社会の様々な分野にブラックボックスが存在していることです。
 例えば、会社などで特定の仕事を特定の人間に任せておくと、その人しか仕事の内容が分からなくなってしまい、だれもチェックできなくなって横領が発生していることに気付かなかったという犯罪はときどき発生しています。
 犯罪ではなくても、業務をアウトソーシングして任せておいたところ、その人が辞めてしまい、業務の詳細が分からなくなるということもよくあります。
 現在はブラックボックス社会と言っても過言ではないほどです。

 一つの重要な方法は情報公開です。コンピュータのオペレーティングシステム(OS)には、内容を公開しないものと、ソースコードといわれるプログラムの内容を完全に公開しているオープンソース・ソフトウェアとがありますが、後者であれば多数の人々がチェックすることができるので、問題のある箇所の発見のチャンスが多くなるし、改良も容易になります。
 企業や社会についても、情報公開(ディスクロージャー)や説明責任(アカウンタビリティ)を果たしていけば、その仕組を多数の人々がチェックすることができ、健全に維持できることになります。
 日本は世界の先進諸国のなかでは、透明性の低い国という評価になっており、トランスペアレンシー・インターナショナルというNGOによる2004年の計算では、10点満点の6・9点で20番目です。来年はぜひ透明なホワイトボックス社会を目指していくことを期待したいと思います。





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